>>15続きで現在の技術ではテラヘルツ波は第6移動通信システムでの実験で一部だけ扱えているだけで完全には扱いきれていない

人類はこれまで、主に物質の「空間的な構造」を工夫することで光を操ってきた。その頂点にあるのが、1980年代に登場したフォトニック結晶だ。異なる屈折率を持つ材料を数ナノメートルから数マイクロメートルの精度で格子状に並べることで、特定の波長の光だけを通したり、反射させたりする。半導体が電子の流れを制御するように、フォトニック結晶は光の粒(光子)の通り道を交通整理する。この技術は、現在の高性能なレーザーや光検出器、そして高度な光通信インフラの発展に大きく貢献した。
しかし、空間的な格子による制御には根本的な限界がある。一度構造を作り込んでしまえば、その特性は静的なものにとどまるのだ。外部から磁場をかけたり、温度を変化させたりすることで屈折率をわずかに変えることはできたが、光の波そのものが振動するスピードに追従して、動的に性質を制御することは困難だった。
さらに、研究チームがターゲットとした「テラヘルツ波」の領域は、電磁波のスペクトルの中でも特殊な立ち位置にある。テラヘルツ波は、現代の最高性能の電子部品で扱える周波数の限界に比べて約1000倍も速く振動するが、光ファイバー通信で使われる赤外線よりは遅い。電子工学と光工学のちょうど中間に横たわるこの帯域は、次世代の超高速通信(6Gやそれ以降の規格)の根幹をなす帯域であり、大容量データの瞬時伝送を可能にする。また、医療画像技術においては、X線のように細胞を傷つける電離作用を持たないため、人体に安全な非破壊検査や内部透視の手段として実用化が期待されている。それにもかかわらず、テラヘルツ波を自在に制御し、発生させ、検出する手軽な手段が乏しく、長らく「テラヘルツギャップ」と呼ばれる技術的な空白地帯となっていた。既存の電子回路ではこの周波数に追いつけず、従来の光学素子ではテラヘルツ波の波長に対してサイズが大きすぎるというジレンマが存在していたのである。