ブラックホール代替天体「グラバスター」とは?
ブラックホールとグラバスターの構造の違い。ブラックホールには事象の地平面と特異点がありますが、グラバスターにはどちらもありません。(Credit: 彩恵りり)
このような背景を基に考え出されたブラックホール代替天体の1つが「グラバスター(Gravastar)」です。これは「gravitational vacuum condensate star」を縮めて作られた用語であり、日本語に訳せば「重力・真空エネルギー凝縮星」といった意味になります。vacuumは直訳するとただの真空ですが、実際は真空のエネルギー、言い換えると「暗黒エネルギー」のことを意味します。

暗黒エネルギーとは、宇宙の膨張速度を加速させていると考えられている正体不明の力であり、重力とは逆向きの力として作用しています。反重力と似ていますが、厳密に言えば反重力とは別の概念となります。

グラバスターの外見はブラックホールと瓜二つですが、中身は全く異なります。グラバスターの内部には暗黒エネルギーが詰まっており、外向きに膨張しようとします。一方でグラバスター自身も重力を持つため、暗黒エネルギーと重力が釣り合う大きさで膨張も収縮も停止した状態となります。このため、重力が強すぎて光すらも逃げ出せなくなる領域は発生しません。

また、グラバスターの重力の源である物質は、特異点という1点に集まらず、暗黒エネルギーと重力が釣り合っているグラバスターの表面で薄い殻を作っています。物質は重力崩壊を起こしていないため、普通の物質とはかけ離れた性質を持つと予想されているものの、それでも物質です。この物質でできた薄い殻は、ブラックホールであるならば事象の地平面が形成される距離よりもわずかに外側に存在するため、グラバスターは事象の地平面を持ちません。

このようにしてグラバスターは、ブラックホールの厄介な問題の原因となる、特異点と事象の地平面という2つを回避しているのです。

このようにグラバスターは、ブラックホール代替天体の中では最も注目されている人気のモデルの1つですが、大きな弱点もあります。それは「グラバスターの作り方が分からない」という点です。グラバスターが生成された後の安定性に関する理論モデルは構築されていますが、恒星のような天体からグラバスターを生成するプロセスが分かっていないのです。

もちろん、この宇宙に暗黒エネルギーが実在するかどうかも決着していないという前提もありますが、仮に暗黒エネルギーが実在するものだとしても、どのようなプロセスを経てグラバスターのような暗黒エネルギーの塊が生成されるのかはよく分かっていません。いくらブラックホール代替天体として優れたモデルでも、現実の宇宙に存在できなければ机上の空論になってしまうでしょう。