数学の抽象的な概念を物理的な光の実験に落とし込むため、研究チームはNTTが誇る最先端の半導体微細加工技術を用いた。今回の実験では、理論上の点配列を現実の光学素子に仕立て上げるため、極めて高い精度が要求された。厚さ350ナノメートル(nm)という極薄の窒化シリコン膜に対し、電子線リソグラフィとドライエッチングを駆使して、半径わずか100 nmの円孔を、0.5ミリメートル四方という領域にわたり372,100個も狂いなく配置した。このスケールでのわずかな歪みや欠陥は、光の干渉パターンを容易に破壊してしまう。この膨大な数の穴の配置こそが、モノタイル準格子を二次元空間に物理的に具現化したものだ。
薄膜の表面に緑色のレーザー光を当てると、背後の壁には鮮やかな回折パターンが浮かび上がった。周期性がないにもかかわらず、そこには多数の明るい点が規則的に並ぶ「ブラッグピーク」が現れた。ブラッグピークは通常、明確な長距離秩序を持つ構造でのみ現れる。非周期でありながらこのピークが観測されたことは、構造全体が準結晶としての確かな秩序を保っていることの動かぬ証拠である。
さらに注目すべきは、その回折パターンの形状だった。点の集まりは、鏡映対称性を持たない風車のような形を描いて全体が一定の方向にねじれていた。そのねじれの角度は約15.5度である。研究チームによれば、この角度は恣意的なものではなく、タイルの幾何学を支配する黄金比とフィボナッチ数列から直接導かれる数値だという。さらに、タイルの鏡像(裏返した帽子)を使って作製した反転構造に光を当てると、風車のねじれはきれいに逆方向を向いた。