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ブラックホールに最も近づく星「S301」
 天の川銀河の中心にある「いて座A*」には超大質量ブラックホールがあると考えられている。質量は太陽の約400万倍で、地球から約2万7000光年離れている。
 いて座A*の周りでは、これまでにも複数の星が見つかっている。
 ドイツ、マックス・プランク地球外物理学研究所を中心とする国際研究チームは2023年春、いて座A*のすぐ近くを回る非常に暗い星を初めてとらえ、S301と名づけた。
 S301は、細長い楕円軌道を描きながら、いて座Aを約8.7年で一周する。
 ブラックホールに最も近づくときの距離は約17億8000万kmで、太陽から地球までの距離の約12倍、太陽から土星までの距離より約20%遠い程度だ。
 これまでに観測されたどの星よりも、いて座A*の近くを通る。
 最接近時には、いて座A*の強大な重力によって秒速約2万5000kmまで加速する。
 光速の8%を超え、天の川銀河で確認されている星の中では最速となる。
 それでもS301はブラックホールに飲み込まれず、急カーブを描くように方向を変えて再び遠ざかっていく。
★研究チームのシュテファン・ギレセン氏は、「これは、計画して得られるような発見ではありません」と語っている。
 研究チームはブラックホールの近くに同様の星が存在する可能性を考えていたが、実際に見つけられる保証はなかったという。
★2017年までさかのぼって軌道を確定
 S301を見つけ出す作業は簡単ではなかった。地球から見た明るさは、オリオン座のベテルギウスの20億分の1しかない。
★ しかも、天の川銀河の中心部にはS301よりはるかに明るい星が密集しているため、その姿は無数の光に埋もれた小さな点にすぎなかった。
天の川銀河の中心にある超大質量ブラックホール、いて座A*の周りを回る星のアニメーション。中心付近は青い若く高温の星が占め、オレンジや赤の温度の低い星も数個ある。Image credit:© MPE
 研究チームは、チリのパラナル天文台にあるヨーロッパ南天天文台(ESO)の超大型望遠鏡「VLTI」と、赤外線観測装置「GRAVITY」を使って観測を行った。
 VLTIは、口径8mの望遠鏡4台で集めた光を組み合わせ、1台の巨大な望遠鏡のように働かせる装置だ。
 4台を光ファイバーで結合して干渉計として運用することもできるため、地球から約2万7000光年離れた天の川銀河の中心部を、太陽系ほどの細かさで観測できる。
 研究チームには、いて座A*が超大質量ブラックホールであることを示した研究により、2020年のノーベル物理学賞を受賞したラインハルト・ゲンツェル氏も加わっている。
★ 2023年春にS301を初めてとらえた後、研究チームは2024年と2025年にも追跡観測を行った。
★ 観測点が増えるにつれて軌道の形が見えてくると、過去のデータのどこにS301が写っているはずかを計算し、2017年の観測記録までさかのぼって姿を確認した。
 一連の観測から、S301が前回いて座A*へ最接近したのは2023年初頭だったことも判明した。
いて座A*を周回する星S301をとらえた超大型望遠鏡「VLTI」の画像 Image credit: ESO/GRAVITY collaboration