>>//33日間の保存から真空性能を評価する
>>BASE-STEP内の反陽子数は、33日間にわたって追跡された。この期間には、装置を外部設備から切り離して自律運転する試験が4回、合計12.3時間含まれている。それでも、残留ガスとの衝突による反陽子の消滅は観測されなかった。
>>ここで区別する必要があるのが、保存期間中に1個の反陽子が失われたことである。
>>論文では、この1個は粒子を分離するために電極電圧を変更した操作中に失われたと記録されている。したがって、道路輸送中の損失はゼロだったが、33日間を通じて一度も粒子が失われなかったわけではない。
>>一方、残留ガスとの衝突による消滅が観測されなかったことは、トラップ内部の真空度を評価する手掛かりになる。
>>残留ガスの密度が高ければ、反陽子が気体分子と衝突して消滅する確率は高くなる。反対に、多数の反陽子を長期間観測しても消滅が起こらなければ、その結果と矛盾しない残留ガス密度に上限を設けることができる。
>>この観測量は、単純な33日という暦時間より大きい。
>>研究チームが各反陽子の保存時間を合計すると、「反陽子1個を8.28年間観測した」ことに相当する累積観測時間となった。もちろん、1個の反陽子を実際に8年以上保存したという意味ではない。多数の反陽子を同時並行で観測した時間を合計した値である。
>>研究チームは、まれな消滅事象の発生をポアソン過程として扱い、この観測結果から保存寿命の下限を68%の信頼水準で7.27年と推定した。
>>ここでいう保存寿命とは、この装置内で反陽子を保持できる時間尺度を示す。反陽子そのものの自然崩壊寿命を測定したわけでも、装置を7.27年間連続運転したわけでもない。
>>さらに、既知の対消滅断面積、すなわち反陽子が残留ガスと衝突して消滅する確率を使い、残留ガスの各成分について圧力の上限を求めた。
>>水素は9.6×10⁻¹⁹mbar未満、ヘリウムは2.2×10⁻¹⁸mbar未満と推定された。これらは圧力計で直接測定した値ではなく、「反陽子が消滅せず残った」という観測結果を物理モデルへ当てはめて導いた上限値である。
>>重要なのは、完全な真空を証明することではない。反陽子を長期間保存するうえで、残留ガスによる損失が十分に小さいことを示せればよい。
>>粒子を出し入れするための経路を備えた可搬型装置で、輸送後もこの水準の真空性能を維持できたことが、将来の精密測定に向けた重要な成果となる。