今から一年前、男は馬のマスクを被ったしがない旅芸人だった。
鳴かず飛ばずのショーを幾度となく繰り返した末にやっとの思いで手にした初仕事、廃棄された兵姫保護施設への慰安に訪れた際に、男は不運にもAI根絶を謳う過激派勢力の襲撃を受けてしまう。
彼らの目的はAIの破壊、人を傷つけることではなかった。

……だが、男はとっさに少女を庇った。

彼の身を呈した行動により被害は最小限に留められ、他の職員によって事態は沈静化した。
しかし過激派が投げたお粗末な火炎瓶の熱でさえ、安物のゴムを溶かし彼の皮膚とマスクとを癒着させるには十分過ぎるものであった。

以来彼はマスクを補修し、火傷の跡を隠すためにいつ何時もスーツと手袋で肌を隠している。
今日も彼は嘯いている、自分自身を騙すように、少女の夢を壊さぬように。
マスクの下にはハンサムな貌が隠れているのだと繰り返す。

真実は決して知られてはならない。
特に、そう──旅芸人のつまらない芸を見て笑みを浮かべた、あの子にだけは……。