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公式
https://entum.jp
https://twitter.com/entum_info
※前スレ
【バーチャルYoutuber】 ENTUM(エンタム)アンチスレ※673【闇鍋】
https://egg.5ch.net/test/read.cgi/streaming/1545569520/
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【バーチャルYoutuber】ENTUM(エンタム)アンチスレ※674【鍋】
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2018/12/24(月) 01:52:58.81
2018/12/24(月) 06:01:08.60
、などの挨拶以外には人に話しかけないことが分った。 オレが気がついたと同じことを、青ガサも気がついた。そして彼はチイサ釜に云った。「オメエはどういうわけで挨拶の口上だけはヌカリなく述べやがるんだ。ま
るでヒタイへとまったハエは手で払うものだときめたようにウルサイぞ。タクミの手はノミを使うが、一々ハエを追うために肩の骨が延びてきたわけではあるまい。人の口は必要を弁じるために孔があいているのだが、朝
晩の挨拶なんぞは、舌を出しても、屁をたれても間に合うものだ」 オレはこれをきいて、ズケズケと物を云う青ガサがなんとなく気に入った。 三人のタクミが揃ったので、正式に長者の前へ召されて、このたびの仕事
を申し渡された。ヒメの持仏をつくるためだと聞いていたが、くわしいことはまだ知らされていなかったのだ。 長者はかたえのヒメを見やって云った。「このヒメの今生後生をまもりたもう尊いホトケの御姿を刻んでも
らいたいものだ。持仏堂におさめて、ヒメが朝夕拝むものだが、ミホトケの御姿と、それをおさめるズシがほしい。ミホトケはミロクボサツ。その他は銘々の工夫にまかせるが、ヒメの十六の正月までに仕上げてもらいた
い」 三名のタクミがその仕事を正式に受けて挨拶を終ると、酒肴が運ばれた。長者とヒメは正面に一段高く、左手には三名のタクミの膳が、右手にも三ツの膳が並べられた。そこにはまだ人の姿が見えなかったが、たぶ
んアナマロと、その他の二名の重立つ者の座であろうとオレは考えていた。ところが、アナマロがみちびいてきたのは二人の女であった。 長者は二人の女をオレたちにひき合せて、こう云った。「向うの高い山をこえ、
その向うのミズウミをこえ、そのまた向うのひろい野をこえると、石と岩だけでできた高い山がある。その山を泣いてこえると、またひろい野があって、そのまた向うに霧の深い山がある。またその山を泣いてこえると、
ひろいひろい森があって森の中を大きな川が流れている。その森を三日がかりで泣きながら通りぬけると、何千という、泉が湧き出している里があるのだよ。その里には一ツの木蔭の一ツの泉ごとに一人の娘がハタを織っ
ているそうな。その里の一番大きな木の下の一番キレイな泉のそばでハタを織っていたのが一番美しい娘で、ここにいる若い方の人がその娘だよ。この娘がハタを織るようになるまでは娘のお母さんが織っていたが、それ
がこッちの年をとった女の人だよ。その里から虹の橋を渡ってはるばるとヒメの着物を織るためにヒダの奥まで来てくれたのだ。お母さんを月待(ツキマチ)と云い、娘を江奈古(エナコ)と云う。ヒメの気に入ったミホ
トケを造った者には、美しいエナコをホービに進ぜよう」 長者が金にあかして買い入れたハタを織る美しい奴隷なのだ。オレの生れたヒダの国へも他国から奴隷を買いにくる者があるが、それは男の奴隷で、そしてオレ
のようなタクミが奴隷に買われて行くのさ。しかし、やむにやまれぬ必要のために遠い国から買いにくるのだから、奴隷は大切に扱われ、第一等のお客様と同じようにもてなしを受けるそうだが、それも仕事が出来あがる
までの話さ。仕事が終って無用になれば金で買った奴隷だから、人にくれてやることも、ウワバミにくれてやることも主人の勝手だ。だから遠国へ買われて行くことを好むタクミはいないが、女の身なら尚さらのことであ
ろう。 可哀そうな女たちよ、とオレは思った。けれども、ヒメの気に入った仏像を造った者にエナコをホービにやるという長者の言葉はオレをビックリさせた。 オレはヒメの気に入るような仏像を造る気持がなかった
のだ。馬の顔にそッくりだと云われて山の奥へ夢中で駈けこんでしまったとき、オレは日暮れちかくまで滝壺のそばにいたあげく、オレはヒメの気に入らない仏像を造るために、いや、仏像ではなくて怖ろしい馬の顔の化
け物を造るために精魂を傾けてやると覚悟をかためていたのだから。 だから、ヒメの気に入った仏像を造った者にエナコをホービにやるという長者の言葉はオレに大きな驚愕を与えた。また、激しい怒りも覚えた。また
、この女はオレがもらう女ではないと気がついたために、ムラムラと嘲りも湧いた。 その雑念を抑えるために、タクミの心になりきろうとオレは思った。親方が教えてくれたタクミの心構えの用いどころはこの時だと思
った。 そこでオレはエナコを見つめた。大蛇が足にかみついてもこの目を放しはしないぞと我とわが胸に云いきかせながら。「この女が、山をこえ、ミズウミをこえ、野をこえ、また山を越えて、野をこえて、また山を
こえて、大きな森をこえて、泉の湧く里から来たハタを織る女だと? それは珍しい動物だ」 オレの目はエナコの顔から放れなかったが、一心不乱ではなかった。なぜなら、オレは驚愕と怒りを抑えた代りに、嘲りが宿
るでヒタイへとまったハエは手で払うものだときめたようにウルサイぞ。タクミの手はノミを使うが、一々ハエを追うために肩の骨が延びてきたわけではあるまい。人の口は必要を弁じるために孔があいているのだが、朝
晩の挨拶なんぞは、舌を出しても、屁をたれても間に合うものだ」 オレはこれをきいて、ズケズケと物を云う青ガサがなんとなく気に入った。 三人のタクミが揃ったので、正式に長者の前へ召されて、このたびの仕事
を申し渡された。ヒメの持仏をつくるためだと聞いていたが、くわしいことはまだ知らされていなかったのだ。 長者はかたえのヒメを見やって云った。「このヒメの今生後生をまもりたもう尊いホトケの御姿を刻んでも
らいたいものだ。持仏堂におさめて、ヒメが朝夕拝むものだが、ミホトケの御姿と、それをおさめるズシがほしい。ミホトケはミロクボサツ。その他は銘々の工夫にまかせるが、ヒメの十六の正月までに仕上げてもらいた
い」 三名のタクミがその仕事を正式に受けて挨拶を終ると、酒肴が運ばれた。長者とヒメは正面に一段高く、左手には三名のタクミの膳が、右手にも三ツの膳が並べられた。そこにはまだ人の姿が見えなかったが、たぶ
んアナマロと、その他の二名の重立つ者の座であろうとオレは考えていた。ところが、アナマロがみちびいてきたのは二人の女であった。 長者は二人の女をオレたちにひき合せて、こう云った。「向うの高い山をこえ、
その向うのミズウミをこえ、そのまた向うのひろい野をこえると、石と岩だけでできた高い山がある。その山を泣いてこえると、またひろい野があって、そのまた向うに霧の深い山がある。またその山を泣いてこえると、
ひろいひろい森があって森の中を大きな川が流れている。その森を三日がかりで泣きながら通りぬけると、何千という、泉が湧き出している里があるのだよ。その里には一ツの木蔭の一ツの泉ごとに一人の娘がハタを織っ
ているそうな。その里の一番大きな木の下の一番キレイな泉のそばでハタを織っていたのが一番美しい娘で、ここにいる若い方の人がその娘だよ。この娘がハタを織るようになるまでは娘のお母さんが織っていたが、それ
がこッちの年をとった女の人だよ。その里から虹の橋を渡ってはるばるとヒメの着物を織るためにヒダの奥まで来てくれたのだ。お母さんを月待(ツキマチ)と云い、娘を江奈古(エナコ)と云う。ヒメの気に入ったミホ
トケを造った者には、美しいエナコをホービに進ぜよう」 長者が金にあかして買い入れたハタを織る美しい奴隷なのだ。オレの生れたヒダの国へも他国から奴隷を買いにくる者があるが、それは男の奴隷で、そしてオレ
のようなタクミが奴隷に買われて行くのさ。しかし、やむにやまれぬ必要のために遠い国から買いにくるのだから、奴隷は大切に扱われ、第一等のお客様と同じようにもてなしを受けるそうだが、それも仕事が出来あがる
までの話さ。仕事が終って無用になれば金で買った奴隷だから、人にくれてやることも、ウワバミにくれてやることも主人の勝手だ。だから遠国へ買われて行くことを好むタクミはいないが、女の身なら尚さらのことであ
ろう。 可哀そうな女たちよ、とオレは思った。けれども、ヒメの気に入った仏像を造った者にエナコをホービにやるという長者の言葉はオレをビックリさせた。 オレはヒメの気に入るような仏像を造る気持がなかった
のだ。馬の顔にそッくりだと云われて山の奥へ夢中で駈けこんでしまったとき、オレは日暮れちかくまで滝壺のそばにいたあげく、オレはヒメの気に入らない仏像を造るために、いや、仏像ではなくて怖ろしい馬の顔の化
け物を造るために精魂を傾けてやると覚悟をかためていたのだから。 だから、ヒメの気に入った仏像を造った者にエナコをホービにやるという長者の言葉はオレに大きな驚愕を与えた。また、激しい怒りも覚えた。また
、この女はオレがもらう女ではないと気がついたために、ムラムラと嘲りも湧いた。 その雑念を抑えるために、タクミの心になりきろうとオレは思った。親方が教えてくれたタクミの心構えの用いどころはこの時だと思
った。 そこでオレはエナコを見つめた。大蛇が足にかみついてもこの目を放しはしないぞと我とわが胸に云いきかせながら。「この女が、山をこえ、ミズウミをこえ、野をこえ、また山を越えて、野をこえて、また山を
こえて、大きな森をこえて、泉の湧く里から来たハタを織る女だと? それは珍しい動物だ」 オレの目はエナコの顔から放れなかったが、一心不乱ではなかった。なぜなら、オレは驚愕と怒りを抑えた代りに、嘲りが宿
2018/12/24(月) 06:01:25.00
人間をみな殺しにしてしまう」 オレはそれをハッキリ信じた。オレが高楼の天井いっぱいに蛇の死体を吊し終えた時、この村の最後の一人が息をひきとるに相違ない。 オレが天井を見上げると、風の吹き渡る高楼だか
ら、何十本もの蛇の死体が調子をそろえてゆるやかにゆれ、隙間からキレイな青空が見えた。閉めきったオレの小屋では、こんなことは見かけることができなかったが、ぶらさがった蛇の死体までがこんなに美しいという
ことは、なんということだろうとオレは思った。こんなことは人間世界のことではないとオレは思った。 オレが逆吊りにした蛇の死体をオレの手が斬り落すか、ここからオレが逃げ去るか、どっちか一ツを選ぶより仕方
がないとオレは思った。オレはノミを握りしめた。そして、いずれを選ぶべきかに尚も迷った。そのとき、ヒメの声がきこえた。「とうとう動かなくなったわ。なんて可愛いのでしょうね。お日さまが、うらやましい。日
本中の野でも里でも町でも、こんな風に死ぬ人をみんな見ていらッしゃるのね」 それをきいているうちにオレの心が変った。このヒメを殺さなければ、チャチな人間世界はもたないのだとオレは思った。 ヒメは無心に
野良を見つめていた。新しいキリキリ舞いを探しているのかも知れなかった。なんて可憐なヒメだろうとオレは思った。そして、心がきまると、オレはフシギにためらわなかった。むしろ強い力がオレを押すように思われ
た。 オレはヒメに歩み寄ると、オレの左手をヒメの左の肩にかけ、だきすくめて、右手のキリを胸にうちこんだ。オレの肩はハアハアと大きな波をうっていたが、ヒメは目をあけてニッコリ笑った。「サヨナラの挨拶を
して、それから殺して下さるものよ。私もサヨナラの挨拶をして、胸を突き刺していただいたのに」 ヒメのツブラな瞳はオレに絶えず、笑みかけていた。 オレはヒメの言う通りだと思った。オレも挨拶がしたかったし
、せめてお詫びの一言も叫んでからヒメを刺すつもりであったが、やっぱりのぼせて、何も言うことができないうちにヒメを刺してしまったのだ。今さら何を言えよう。オレの目に不覚の涙があふれた。 するとヒメはオ
レの手をとり、ニッコリとささやいた。「好きなものは咒うか殺すか争うかしなければならないのよ。お前のミロクがダメなのもそのせいだし、お前のバケモノがすばらしいのもそのためなのよ。いつも天井に蛇を吊して
、いま私を殺したように立派な仕事をして……」 ヒメの目が笑って、とじた。 オレはヒメを抱いたまま気を失って倒れてしまった。
オレの親方はヒダ随一の名人とうたわれたタクミであったが、夜長の長者に招かれたのは、老病で死期の近づいた時だった。親方は身代りにオレをスイセンして、「これはまだ二十の若者だが、小さいガキのころからオ
レの膝元に育ち、特に仕込んだわけでもないが、オレが工夫の骨法は大過なく会得している奴です。五十年仕込んでも、ダメの奴はダメのものさ。青笠《アオガサ》や古釜《フルカマ》にくらべると巧者ではないかも知れ
ぬが、力のこもった仕事をしますよ。宮を造ればツギ手や仕口にオレも気附かぬ工夫を編みだしたこともあるし、仏像を刻めば、これが小僧の作かと訝かしく思われるほど深いイノチを現します。オレが病気のために余儀
なく此奴を代理に差出すわけではなくて、青笠や古釜と技を競って劣るまいとオレが見込んで差出すものと心得て下さるように」 きいていてオレが呆れてただ目をまるくせずにいられなかったほどの過分の言葉であった
。 オレはそれまで親方にほめられたことは一度もなかった。もっとも、誰をほめたこともない親方ではあったが、それにしても、この突然のホメ言葉はオレをまったく驚愕させた。当のオレがそれほどだから、多くの古
い弟子たちが親方はモウロクして途方もないことを口走ってしまったものだと云いふらしたのは、あながち嫉みのせいだけではなかったのである。 夜長の長者の使者アナマロも兄弟子たちの言い分に理があるようだと考
えた。そこでオレをひそかに別室へよんで、「お前の師匠はモウロクしてあんなことを云ったが、まさかお前は長者の招きに進んで応じるほど向う見ずではあるまいな」 こう云われると、オレはムラムラと腹が立った。
その時まで親方の言葉を疑ったり、自分の腕に不安を感じていたのが一時に掻き消えて、顔に血がこみあげた。「オレの腕じゃア不足なほど、夜長の長者は尊い人ですかい。はばかりながら、オレの刻んだ仏像が不足だと
いう寺は天下に一ツもない筈だ」 オレは目もくらみ耳もふさがり、叫びたてるわが姿をトキをつくるのようだと思ったほどだ。アナマロは苦笑した。「相弟子どもと鎮守のホコラを造るのとはワケがちがうぞ。お前が腕
ら、何十本もの蛇の死体が調子をそろえてゆるやかにゆれ、隙間からキレイな青空が見えた。閉めきったオレの小屋では、こんなことは見かけることができなかったが、ぶらさがった蛇の死体までがこんなに美しいという
ことは、なんということだろうとオレは思った。こんなことは人間世界のことではないとオレは思った。 オレが逆吊りにした蛇の死体をオレの手が斬り落すか、ここからオレが逃げ去るか、どっちか一ツを選ぶより仕方
がないとオレは思った。オレはノミを握りしめた。そして、いずれを選ぶべきかに尚も迷った。そのとき、ヒメの声がきこえた。「とうとう動かなくなったわ。なんて可愛いのでしょうね。お日さまが、うらやましい。日
本中の野でも里でも町でも、こんな風に死ぬ人をみんな見ていらッしゃるのね」 それをきいているうちにオレの心が変った。このヒメを殺さなければ、チャチな人間世界はもたないのだとオレは思った。 ヒメは無心に
野良を見つめていた。新しいキリキリ舞いを探しているのかも知れなかった。なんて可憐なヒメだろうとオレは思った。そして、心がきまると、オレはフシギにためらわなかった。むしろ強い力がオレを押すように思われ
た。 オレはヒメに歩み寄ると、オレの左手をヒメの左の肩にかけ、だきすくめて、右手のキリを胸にうちこんだ。オレの肩はハアハアと大きな波をうっていたが、ヒメは目をあけてニッコリ笑った。「サヨナラの挨拶を
して、それから殺して下さるものよ。私もサヨナラの挨拶をして、胸を突き刺していただいたのに」 ヒメのツブラな瞳はオレに絶えず、笑みかけていた。 オレはヒメの言う通りだと思った。オレも挨拶がしたかったし
、せめてお詫びの一言も叫んでからヒメを刺すつもりであったが、やっぱりのぼせて、何も言うことができないうちにヒメを刺してしまったのだ。今さら何を言えよう。オレの目に不覚の涙があふれた。 するとヒメはオ
レの手をとり、ニッコリとささやいた。「好きなものは咒うか殺すか争うかしなければならないのよ。お前のミロクがダメなのもそのせいだし、お前のバケモノがすばらしいのもそのためなのよ。いつも天井に蛇を吊して
、いま私を殺したように立派な仕事をして……」 ヒメの目が笑って、とじた。 オレはヒメを抱いたまま気を失って倒れてしまった。
オレの親方はヒダ随一の名人とうたわれたタクミであったが、夜長の長者に招かれたのは、老病で死期の近づいた時だった。親方は身代りにオレをスイセンして、「これはまだ二十の若者だが、小さいガキのころからオ
レの膝元に育ち、特に仕込んだわけでもないが、オレが工夫の骨法は大過なく会得している奴です。五十年仕込んでも、ダメの奴はダメのものさ。青笠《アオガサ》や古釜《フルカマ》にくらべると巧者ではないかも知れ
ぬが、力のこもった仕事をしますよ。宮を造ればツギ手や仕口にオレも気附かぬ工夫を編みだしたこともあるし、仏像を刻めば、これが小僧の作かと訝かしく思われるほど深いイノチを現します。オレが病気のために余儀
なく此奴を代理に差出すわけではなくて、青笠や古釜と技を競って劣るまいとオレが見込んで差出すものと心得て下さるように」 きいていてオレが呆れてただ目をまるくせずにいられなかったほどの過分の言葉であった
。 オレはそれまで親方にほめられたことは一度もなかった。もっとも、誰をほめたこともない親方ではあったが、それにしても、この突然のホメ言葉はオレをまったく驚愕させた。当のオレがそれほどだから、多くの古
い弟子たちが親方はモウロクして途方もないことを口走ってしまったものだと云いふらしたのは、あながち嫉みのせいだけではなかったのである。 夜長の長者の使者アナマロも兄弟子たちの言い分に理があるようだと考
えた。そこでオレをひそかに別室へよんで、「お前の師匠はモウロクしてあんなことを云ったが、まさかお前は長者の招きに進んで応じるほど向う見ずではあるまいな」 こう云われると、オレはムラムラと腹が立った。
その時まで親方の言葉を疑ったり、自分の腕に不安を感じていたのが一時に掻き消えて、顔に血がこみあげた。「オレの腕じゃア不足なほど、夜長の長者は尊い人ですかい。はばかりながら、オレの刻んだ仏像が不足だと
いう寺は天下に一ツもない筈だ」 オレは目もくらみ耳もふさがり、叫びたてるわが姿をトキをつくるのようだと思ったほどだ。アナマロは苦笑した。「相弟子どもと鎮守のホコラを造るのとはワケがちがうぞ。お前が腕
2018/12/24(月) 06:01:57.80
ように憎むのはワケが分らない。ひょッとすると、長者があんなことを云ったから、オレが女をほしがっていると思って咒っているのかも知れないな」 こう考えると、ワケが分ってきたように思われた。そこでムラムラ
と怒りがこみあげた。バカな女め。キサマ欲しさに仕事をするオレと思うか。連れて帰れと云われても、肩に落ちた毛虫のように手で払って捨てて行くだけのことだ。こう考えたから、オレの心は落附いた。「耳男をつれ
て参りました」 アナマロが室内に向って大声で叫んだ。するとスダレの向うに気配があって、着席した長者が云った。「アナマロはあるか」「これにおります」「耳男に沙汰を申し伝えよ」「かしこまりました」 アナ
と怒りがこみあげた。バカな女め。キサマ欲しさに仕事をするオレと思うか。連れて帰れと云われても、肩に落ちた毛虫のように手で払って捨てて行くだけのことだ。こう考えたから、オレの心は落附いた。「耳男をつれ
て参りました」 アナマロが室内に向って大声で叫んだ。するとスダレの向うに気配があって、着席した長者が云った。「アナマロはあるか」「これにおります」「耳男に沙汰を申し伝えよ」「かしこまりました」 アナ
2018/12/24(月) 06:02:13.87
てやったが、顔がまッかに染まり汗が一時に溢れでたのは、オレの心を裏切るものであった。 顔が赤く染まって汗が溢れでたのは、この女の生き首が欲しい下心のせいではなかった。オレを憎むワケがあるとは思われぬ
のに女がオレを仇のように睨んでいるから、さてはオレが女をわが物にしたい下心でもあると見て咒っているのだなと考えた。そして、バカな奴め。キサマを連れて帰れと云われても、肩に落ちた毛虫のように払い落して
帰るだけだと考えていた。 有りもせぬ下心を疑られては迷惑だとかねて甚だ気にかけていたことを、思いもよらずアナマロの口からきいたから、オレは虚をつかれて、うろたえてしまったのだ。一度うろたえてしまうと
、それを恥じたり気に病んだりして、オレの顔は益々熱く燃え、汗は滝の如くに湧き流れるのはいつもの例であった。「こまったことだ。残念なことだ。こんなに汗をビッショリかいて慌ててしまえば、まるでオレの下心
がたしかにそうだと白状しているように思われてしまうばかりだ」 こう考えて、オレは益々うろたえた。額から汗の玉がポタポタとしたたり落ちて、いつやむ気色もなくなってしまった。オレは観念して目を閉じた。オ
レにとってこの赤面と汗はマトモに抵抗しがたい大敵であった。観念の眼をとじてつとめて無心にふける以外に汗の雨ダレを食いとめる手段がなかった。 そのとき、ヒメの声がきこえた。「スダレをあげて」 そう命じ
た。たぶん侍女もいるのだろうが、オレは目を開けて確かめるのを控えた。一時も早く汗の雨ダレを食いとめるには、見たいものも見てはならぬ。オレはもう一度ジックリとヒメの顔が見たかったのだ。「耳男よ。目をあ
けて。そして、私の問いに答えて」 と、ヒメが命じた。オレはシブシブ目をあけた。スダレはまかれて、ヒメは縁に立っていた。「お前、エナコに耳を斬り落されても、虫ケラにかまれたようだッて? ほんとうにそう
?」 無邪気な明るい笑顔だとオレは思った。オレは大きくうなずいて、「ほんとうにそうです」と答えた。「あとでウソだと仰有ッてはダメよ」「そんなことは言いやしません。虫ケラだと思っているから、死に首も、
生き首もマッピラでさア」 ヒメはニッコリうなずいた。ヒメはエナコに向って云った。「エナコよ。耳男の片耳もかんでおやり。虫ケラにかまれても腹が立たないそうですから、存分にかんであげるといいわ。虫ケラの
歯を貸してあげます。なくなったお母様の形見の品の一ツだけど、耳男の耳をかんだあとではお前にあげます」 ヒメは懐剣をとって侍女に渡した。侍女はそれをささげてエナコの前に差出した。 オレはエナコがよもや
それを受けとるとは考えていなかった。斧でクビを斬る代りにイマシメの縄をきりはらってやったオレの耳を斬る刀だ。 しかし、エナコは受けとった。なるほど、ヒメの与えた刀なら受けとらぬワケにはゆくまいが、よ
もやそのサヤは払うまいとまたオレは考えた。 可憐なヒメは無邪気にイタズラをたのしんでいる。その明るい笑顔を見るがよい。虫も殺さぬ笑顔とは、このことだ。イタズラをたのしむ亢奮もなければ、何かを企む翳り
もない。童女そのものの笑顔であった。 オレはこう思った。問題は、エナコが巧みな言葉で手に受けた懐剣をヒメに返すことができるかどうか、ということだ。まんまと懐剣をせしめることができるほど巧みな言葉を思
いつけば、尚のこと面白い。それに応じて、オレがうまいこと警句の一ツも合せることができれば、この上もなしであろう。ヒメは満足してスダレをおろすに相違ない。 オレがこう考えたのは、あとで思えばフシギなこ
とだ。なぜなら、ヒメはエナコに懐剣を与えて、オレの耳を斬れと命じているのだし、オレが片耳を失ったのもその大本はと云えばヒメからではないか。そして、オレが怖ろしい魔神の像をきざんでやるぞと心をきめたの
もヒメのため。その像を見ておどろく人もまずヒメでなければならぬ筈だ。そのヒメがエナコに懐剣を与えてオレの耳を斬り落せと命じているのに、オレがそれを幸福な遊びのひとときだとふと考えていたのは、思えばフ
シギなことであった。ヒメの冴え冴えとした笑顔、澄んだツブラな目のせいであろうか。オレは夢を見たようにフシギでならぬ。 オレはエナコが刀のサヤを払うまいと思ったから、その思いを目にこめてウットリとヒメ
の笑顔に見とれた。思えばこれが何よりの不覚、心の隙であったろう。 オレがすさまじい気魄に気がついて目を転じたとき、すでにエナコはズカズカとオレの目の前に進んでいた。 シマッタ! とオレは思った。エナ
コはオレの鼻先で懐剣のサヤを払い、オレの耳の尖《さき》をつまんだ。 オレは他の全てを忘れて、ヒメを見た。ヒメの言葉がある筈だ。エナコに与えるヒメの言葉が。あの冴え冴えと澄んだ童女の笑顔から当然ほとば
のに女がオレを仇のように睨んでいるから、さてはオレが女をわが物にしたい下心でもあると見て咒っているのだなと考えた。そして、バカな奴め。キサマを連れて帰れと云われても、肩に落ちた毛虫のように払い落して
帰るだけだと考えていた。 有りもせぬ下心を疑られては迷惑だとかねて甚だ気にかけていたことを、思いもよらずアナマロの口からきいたから、オレは虚をつかれて、うろたえてしまったのだ。一度うろたえてしまうと
、それを恥じたり気に病んだりして、オレの顔は益々熱く燃え、汗は滝の如くに湧き流れるのはいつもの例であった。「こまったことだ。残念なことだ。こんなに汗をビッショリかいて慌ててしまえば、まるでオレの下心
がたしかにそうだと白状しているように思われてしまうばかりだ」 こう考えて、オレは益々うろたえた。額から汗の玉がポタポタとしたたり落ちて、いつやむ気色もなくなってしまった。オレは観念して目を閉じた。オ
レにとってこの赤面と汗はマトモに抵抗しがたい大敵であった。観念の眼をとじてつとめて無心にふける以外に汗の雨ダレを食いとめる手段がなかった。 そのとき、ヒメの声がきこえた。「スダレをあげて」 そう命じ
た。たぶん侍女もいるのだろうが、オレは目を開けて確かめるのを控えた。一時も早く汗の雨ダレを食いとめるには、見たいものも見てはならぬ。オレはもう一度ジックリとヒメの顔が見たかったのだ。「耳男よ。目をあ
けて。そして、私の問いに答えて」 と、ヒメが命じた。オレはシブシブ目をあけた。スダレはまかれて、ヒメは縁に立っていた。「お前、エナコに耳を斬り落されても、虫ケラにかまれたようだッて? ほんとうにそう
?」 無邪気な明るい笑顔だとオレは思った。オレは大きくうなずいて、「ほんとうにそうです」と答えた。「あとでウソだと仰有ッてはダメよ」「そんなことは言いやしません。虫ケラだと思っているから、死に首も、
生き首もマッピラでさア」 ヒメはニッコリうなずいた。ヒメはエナコに向って云った。「エナコよ。耳男の片耳もかんでおやり。虫ケラにかまれても腹が立たないそうですから、存分にかんであげるといいわ。虫ケラの
歯を貸してあげます。なくなったお母様の形見の品の一ツだけど、耳男の耳をかんだあとではお前にあげます」 ヒメは懐剣をとって侍女に渡した。侍女はそれをささげてエナコの前に差出した。 オレはエナコがよもや
それを受けとるとは考えていなかった。斧でクビを斬る代りにイマシメの縄をきりはらってやったオレの耳を斬る刀だ。 しかし、エナコは受けとった。なるほど、ヒメの与えた刀なら受けとらぬワケにはゆくまいが、よ
もやそのサヤは払うまいとまたオレは考えた。 可憐なヒメは無邪気にイタズラをたのしんでいる。その明るい笑顔を見るがよい。虫も殺さぬ笑顔とは、このことだ。イタズラをたのしむ亢奮もなければ、何かを企む翳り
もない。童女そのものの笑顔であった。 オレはこう思った。問題は、エナコが巧みな言葉で手に受けた懐剣をヒメに返すことができるかどうか、ということだ。まんまと懐剣をせしめることができるほど巧みな言葉を思
いつけば、尚のこと面白い。それに応じて、オレがうまいこと警句の一ツも合せることができれば、この上もなしであろう。ヒメは満足してスダレをおろすに相違ない。 オレがこう考えたのは、あとで思えばフシギなこ
とだ。なぜなら、ヒメはエナコに懐剣を与えて、オレの耳を斬れと命じているのだし、オレが片耳を失ったのもその大本はと云えばヒメからではないか。そして、オレが怖ろしい魔神の像をきざんでやるぞと心をきめたの
もヒメのため。その像を見ておどろく人もまずヒメでなければならぬ筈だ。そのヒメがエナコに懐剣を与えてオレの耳を斬り落せと命じているのに、オレがそれを幸福な遊びのひとときだとふと考えていたのは、思えばフ
シギなことであった。ヒメの冴え冴えとした笑顔、澄んだツブラな目のせいであろうか。オレは夢を見たようにフシギでならぬ。 オレはエナコが刀のサヤを払うまいと思ったから、その思いを目にこめてウットリとヒメ
の笑顔に見とれた。思えばこれが何よりの不覚、心の隙であったろう。 オレがすさまじい気魄に気がついて目を転じたとき、すでにエナコはズカズカとオレの目の前に進んでいた。 シマッタ! とオレは思った。エナ
コはオレの鼻先で懐剣のサヤを払い、オレの耳の尖《さき》をつまんだ。 オレは他の全てを忘れて、ヒメを見た。ヒメの言葉がある筈だ。エナコに与えるヒメの言葉が。あの冴え冴えと澄んだ童女の笑顔から当然ほとば
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