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公式
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※前スレ
【バーチャルYoutuber】タ厶antiスレ√675【鍋】
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【Vのモノ】夕厶antiスレ√676【鍋】
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています
2018/12/24(月) 12:37:47.41
2018/12/24(月) 12:38:07.94
避難
2018/12/24(月) 12:38:34.40
やっぱ手動なんか?
2018/12/24(月) 12:38:36.94
このスレに来るかな
2018/12/24(月) 12:38:45.89
助かる
2018/12/24(月) 12:39:11.98
ありがてぇ
2018/12/24(月) 12:39:22.45
ドル信が建てました
2018/12/24(月) 12:39:49.05
助かる
2018/12/24(月) 12:40:03.78
>>7
仕方ない、配信中は許すわ
仕方ない、配信中は許すわ
2018/12/24(月) 12:40:35.85
>>7
さっさと帰れ
さっさと帰れ
2018/12/24(月) 12:40:46.24
>>7
ありがとう帰って
ありがとう帰って
2018/12/24(月) 12:41:42.96
避難早すぎ、少しは抗えよw
2018/12/24(月) 12:42:28.61
抗ってもどうしようもないし
14名無しさん@お腹いっぱい。
2018/12/24(月) 12:42:57.582018/12/24(月) 12:43:04.11
スレタイかっこよくて草
2018/12/24(月) 12:43:08.69
これで来たら次から「田無鍋 」スレで立てるわ
2018/12/24(月) 12:43:12.97
戦う意味ないだろw
引き際を見誤らないのが優秀な将に求められる資質
引き際を見誤らないのが優秀な将に求められる資質
2018/12/24(月) 12:43:40.83
常に流れに身を任せるのが俺たちのやり方だ
2018/12/24(月) 12:43:45.90
>>14
邪推系テメェ、、、
邪推系テメェ、、、
2018/12/24(月) 12:44:28.35
邪推系嫌い見る価値なし
2018/12/24(月) 12:44:50.84
>>14
なんで個アン民まできてるんだよ
なんで個アン民まできてるんだよ
2018/12/24(月) 12:45:02.00
ひいちゃんの復活は明日?
どうせならアカリと4人衆コラボ放送しねーかな?
どうせならアカリと4人衆コラボ放送しねーかな?
2018/12/24(月) 12:45:14.58
にじスレ以外全部荒らされてんな
にじさんじって本当に糞だわ
にじさんじって本当に糞だわ
2018/12/24(月) 12:45:17.13
ここは全てを受け入れる
2018/12/24(月) 12:45:50.26
四人衆コラボして欲しいな
あの時からどれだけ成長したかみたい
あの時からどれだけ成長したかみたい
2018/12/24(月) 12:46:05.31
>>25
ぴぐもん四人衆かな?
ぴぐもん四人衆かな?
2018/12/24(月) 12:46:20.18
>>22
アカリの足引っ張るコラボなんていらねえよ
アカリの足引っ張るコラボなんていらねえよ
2018/12/24(月) 12:46:23.37
>>25
三人衆な?
三人衆な?
2018/12/24(月) 12:46:41.51
>>26
ぴぐもん四人衆は昨日クリスマス会してたぞ
ぴぐもん四人衆は昨日クリスマス会してたぞ
2018/12/24(月) 12:46:55.23
夜野とばり @yrn__tbr (2018/12/24 12:28:41)
冬コミでえっちな本をかいてもらっちゃいました!とてもえちえちで最高なかんじになっております!通販もあるそうです!ひかり先生ありがとう未成年の子はみちゃだめだよ〜〜
[R-18] 夜野とばり連続中出しガチハメ生配信 | 藤崎ひかり #pixiv https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=72250815
http://twitter.com/yrn__tbr/status/1077043355840737281
https://twitter.com/5chan_nel (5ch newer account)
冬コミでえっちな本をかいてもらっちゃいました!とてもえちえちで最高なかんじになっております!通販もあるそうです!ひかり先生ありがとう未成年の子はみちゃだめだよ〜〜
[R-18] 夜野とばり連続中出しガチハメ生配信 | 藤崎ひかり #pixiv https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=72250815
http://twitter.com/yrn__tbr/status/1077043355840737281
https://twitter.com/5chan_nel (5ch newer account)
2018/12/24(月) 12:47:01.77
三十六計逃げるに如かずって言うしな
ガイジと戦っても疲れるだけだ
ガイジと戦っても疲れるだけだ
2018/12/24(月) 12:47:38.77
2018/12/24(月) 12:47:47.00
YouTube板全部荒らされてるじゃん
もう無理でしょ
もう無理でしょ
2018/12/24(月) 12:48:06.07
悲しいなぁ
2018/12/24(月) 12:48:34.29
スレ建てて移動するだけだし別にいいどうでもいいぞ
2018/12/24(月) 12:48:42.21
塚本大地関連スレにするか
2018/12/24(月) 12:48:48.07
昨日の学園長の戦いについて話そう
2018/12/24(月) 12:49:32.34
>>22
アカリにトドメを刺そうとするのはやめろ
アカリにトドメを刺そうとするのはやめろ
2018/12/24(月) 12:49:45.04
2018/12/24(月) 12:50:07.97
新作塚ッターもなかなかクオリティ高かったな
2018/12/24(月) 12:50:17.07
>>39
うへ、トバリってめあ並に性格悪いんしょ?
うへ、トバリってめあ並に性格悪いんしょ?
2018/12/24(月) 12:51:04.84
ひいろ復活
https://twitter.com/HeroMinamori/status/1077048013850198016
https://twitter.com/5chan_nel (5ch newer account)
https://twitter.com/HeroMinamori/status/1077048013850198016
https://twitter.com/5chan_nel (5ch newer account)
2018/12/24(月) 12:51:26.02
>>42
え、いらない
え、いらない
2018/12/24(月) 12:52:10.92
>>42
うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!
うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!
2018/12/24(月) 12:52:19.77
2018/12/24(月) 12:52:24.11
タムスレの話題候補
深夜アカリ
ひいちゃん復活
蜜マイクラ
みやぢサンタコス配信
ソラおじ配信
もちひよ配信
たまきゆゆうたコラボ
イリアムランキング
塚本のツイッター
深夜アカリ
ひいちゃん復活
蜜マイクラ
みやぢサンタコス配信
ソラおじ配信
もちひよ配信
たまきゆゆうたコラボ
イリアムランキング
塚本のツイッター
2018/12/24(月) 12:52:38.74
>>23
ホロスレも荒らされてないぞ
ホロスレも荒らされてないぞ
2018/12/24(月) 12:52:49.13
>>41
Vになってからは特に問題起こしてないみたいだからよく分からんけどクソコスレで前世らしきものを晒し上げ喰らってたのは見たな
Vになってからは特に問題起こしてないみたいだからよく分からんけどクソコスレで前世らしきものを晒し上げ喰らってたのは見たな
2018/12/24(月) 12:53:41.59
>>48
まあ見る事なさそうだし流すか
まあ見る事なさそうだし流すか
2018/12/24(月) 12:53:43.42
とばりってガワが七篠ちえりに似てるやつか
2018/12/24(月) 12:54:58.18
>>46
今日の歌ってみたの曲予想とかあるだろ
今日の歌ってみたの曲予想とかあるだろ
2018/12/24(月) 12:55:09.41
>>50
ああ?
ああ?
2018/12/24(月) 12:56:32.42
>>50
ふむ…でかいのか?
ふむ…でかいのか?
2018/12/24(月) 13:00:07.29
5300人のイブに予定ない可哀想なファンを抱えてるあたりアイドル部ってアイドルだな
2018/12/24(月) 13:00:35.93
2018/12/24(月) 13:01:17.91
>>53
でかい、空想スレで中身80kとか言われてた
でかい、空想スレで中身80kとか言われてた
2018/12/24(月) 13:02:25.25
>>56
フィジカル強そう
フィジカル強そう
2018/12/24(月) 13:02:53.13
>>54
早朝4時に6000人集まるミライ部は?
早朝4時に6000人集まるミライ部は?
2018/12/24(月) 13:03:00.78
今日のはねる三回行動か
2018/12/24(月) 13:03:20.32
>>55
だれ?
だれ?
2018/12/24(月) 13:05:13.95
2018/12/24(月) 13:05:50.48
海外人気とかまるでアイみたいだな…
2018/12/24(月) 13:06:48.09
ドルアンすれ眺めてたけど、あいつらってマジで教養ないんだな…びっくりだわ…
2018/12/24(月) 13:07:16.98
みやぢ初めて見たけどあんな巨乳だと思わなかった
2018/12/24(月) 13:07:19.32
>>63
オリオンズなめるな
オリオンズなめるな
2018/12/24(月) 13:08:36.64
スレの寿命がどんどん短くなってて草生える
2018/12/24(月) 13:08:46.63
>>64
胸はつめてるだろ童貞か?
胸はつめてるだろ童貞か?
2018/12/24(月) 13:10:23.07
2018/12/24(月) 13:10:49.01
>>63
ガイジの温床だからな
ガイジの温床だからな
2018/12/24(月) 13:11:34.98
>>63
シロアカリさんを知らないのか?
シロアカリさんを知らないのか?
2018/12/24(月) 13:12:27.88
2018/12/24(月) 13:13:38.03
みやぢ前も詰めてなかったか?
2018/12/24(月) 13:14:14.33
おいおい、DBの貧乳とかやめてくれよ
2018/12/24(月) 13:18:20.13
>>68
乳でかいけど手もでかいな
乳でかいけど手もでかいな
2018/12/24(月) 13:20:05.18
5chで教養語るのは止めようぜ
2018/12/24(月) 13:21:12.78
知ったかで煽るのは怖いなぁ
我が身我が身
我が身我が身
2018/12/24(月) 13:22:23.43
BANsのリアイベ写真見たら人結構いるっぽくて草
底辺箱より集客力あるんじゃねえの
底辺箱より集客力あるんじゃねえの
2018/12/24(月) 13:22:48.49
ケンは?
2018/12/24(月) 13:24:16.90
5f87c
2018/12/24(月) 13:24:33.03
して、それから殺して下さるものよ。私もサヨナラの挨拶をして、胸を突き刺していただいたのに」 ヒメのツブラな瞳はオレに絶えず、笑みかけていた。 オレはヒメの言う通りだと思った。オレも挨拶がしたかったし
、せめてお詫びの一言も叫んでからヒメを刺すつもりであったが、やっぱりのぼせて、何も言うことができないうちにヒメを刺してしまったのだ。今さら何を言えよう。オレの目に不覚の涙があふれた。 するとヒメはオ
レの手をとり、ニッコリとささやいた。「好きなものは咒うか殺すか争うかしなければならないのよ。お前のミロクがダメなのもそのせいだし、お前のバケモノがすばらしいのもそのためなのよ。いつも天井に蛇を吊して
、いま私を殺したように立派な仕事をして……」 ヒメの目が笑って、とじた。 オレはヒメを抱いたまま気を失って倒れてしまった。
オレの親方はヒダ随一の名人とうたわれたタクミであったが、夜長の長者に招かれたのは、老病で死期の近づいた時だった。親方は身代りにオレをスイセンして、「これはまだ二十の若者だが、小さいガキのころからオ
レの膝元に育ち、特に仕込んだわけでもないが、オレが工夫の骨法は大過なく会得している奴です。五十年仕込んでも、ダメの奴はダメのものさ。青笠《アオガサ》や古釜《フルカマ》にくらべると巧者ではないかも知れ
ぬが、力のこもった仕事をしますよ。宮を造ればツギ手や仕口にオレも気附かぬ工夫を編みだしたこともあるし、仏像を刻めば、これが小僧の作かと訝かしく思われるほど深いイノチを現します。オレが病気のために余儀
なく此奴を代理に差出すわけではなくて、青笠や古釜と技を競って劣るまいとオレが見込んで差出すものと心得て下さるように」 きいていてオレが呆れてただ目をまるくせずにいられなかったほどの過分の言葉であった
。 オレはそれまで親方にほめられたことは一度もなかった。もっとも、誰をほめたこともない親方ではあったが、それにしても、この突然のホメ言葉はオレをまったく驚愕させた。当のオレがそれほどだから、多くの古
い弟子たちが親方はモウロクして途方もないことを口走ってしまったものだと云いふらしたのは、あながち嫉みのせいだけではなかったのである。 夜長の長者の使者アナマロも兄弟子たちの言い分に理があるようだと考
えた。そこでオレをひそかに別室へよんで、「お前の師匠はモウロクしてあんなことを云ったが、まさかお前は長者の招きに進んで応じるほど向う見ずではあるまいな」 こう云われると、オレはムラムラと腹が立った。
その時まで親方の言葉を疑ったり、自分の腕に不安を感じていたのが一時に掻き消えて、顔に血がこみあげた。「オレの腕じゃア不足なほど、夜長の長者は尊い人ですかい。はばかりながら、オレの刻んだ仏像が不足だと
いう寺は天下に一ツもない筈だ」 オレは目もくらみ耳もふさがり、叫びたてるわが姿をトキをつくるのようだと思ったほどだ。アナマロは苦笑した。「相弟子どもと鎮守のホコラを造るのとはワケがちがうぞ。お前が腕
くらべをするのは、お前の師と並んでヒダの三名人とうたわれている青ガサとフル釜だぞ」「青ガサもフル釜も、親方すらも怖ろしいと思うものか。オレが一心不乱にやれば、オレのイノチがオレの造る寺や仏像に宿るだ
けだ」 アナマロはあわれんで溜息をもらすような面持であったが、どう思い直してか、オレを親方の代りに長者の邸へ連れていった。「キサマは仕合せ者だな。キサマの造った品物がオメガネにかなう筈はないが、日本
中の男という男がまだ見ぬ恋に胸をこがしている夜長姫サマの御身ちかくで暮すことができるのだからさ。せいぜい仕事を長びかせて、一時も長く逗留の工夫をめぐらすがよい。どうせかなわぬ仕事の工夫はいらぬことだ
」 道々、アナマロはこんなことを云ってオレをイラだたせた。「どうせかなわぬオレを連れて行くことはありますまい」「そこが虫のカゲンだな。キサマは運のいい奴だ」 オレは旅の途中でアナマロに別れて幾度か立
ち帰ろうと思った。しかし、青ガサやフル釜と技を競う名誉がオレを誘惑した。彼らを怖れて逃げたと思われるのが心外であった。オレは自分に云いきかせた。「一心不乱に、オレのイノチを打ちこんだ仕事をやりとげれ
ばそれでいいのだ。目玉がフシアナ同然の奴らのメガネにかなわなくとも、それがなんだ。オレが刻んだ仏像を道のホコラに安置して、その下に穴を掘って、土に埋もれて死ぬだけのことだ」 たしかにオレは生きて帰ら
ぬような悲痛な覚悟を胸にかためていた。つまりは青ガサやフル釜を怖れる心のせいであろう。正直なところ、自信はなかった。 長者の邸へ着いた翌日、アナマロにみちびかれて奥の庭で、長者に会って挨拶した。長者
、せめてお詫びの一言も叫んでからヒメを刺すつもりであったが、やっぱりのぼせて、何も言うことができないうちにヒメを刺してしまったのだ。今さら何を言えよう。オレの目に不覚の涙があふれた。 するとヒメはオ
レの手をとり、ニッコリとささやいた。「好きなものは咒うか殺すか争うかしなければならないのよ。お前のミロクがダメなのもそのせいだし、お前のバケモノがすばらしいのもそのためなのよ。いつも天井に蛇を吊して
、いま私を殺したように立派な仕事をして……」 ヒメの目が笑って、とじた。 オレはヒメを抱いたまま気を失って倒れてしまった。
オレの親方はヒダ随一の名人とうたわれたタクミであったが、夜長の長者に招かれたのは、老病で死期の近づいた時だった。親方は身代りにオレをスイセンして、「これはまだ二十の若者だが、小さいガキのころからオ
レの膝元に育ち、特に仕込んだわけでもないが、オレが工夫の骨法は大過なく会得している奴です。五十年仕込んでも、ダメの奴はダメのものさ。青笠《アオガサ》や古釜《フルカマ》にくらべると巧者ではないかも知れ
ぬが、力のこもった仕事をしますよ。宮を造ればツギ手や仕口にオレも気附かぬ工夫を編みだしたこともあるし、仏像を刻めば、これが小僧の作かと訝かしく思われるほど深いイノチを現します。オレが病気のために余儀
なく此奴を代理に差出すわけではなくて、青笠や古釜と技を競って劣るまいとオレが見込んで差出すものと心得て下さるように」 きいていてオレが呆れてただ目をまるくせずにいられなかったほどの過分の言葉であった
。 オレはそれまで親方にほめられたことは一度もなかった。もっとも、誰をほめたこともない親方ではあったが、それにしても、この突然のホメ言葉はオレをまったく驚愕させた。当のオレがそれほどだから、多くの古
い弟子たちが親方はモウロクして途方もないことを口走ってしまったものだと云いふらしたのは、あながち嫉みのせいだけではなかったのである。 夜長の長者の使者アナマロも兄弟子たちの言い分に理があるようだと考
えた。そこでオレをひそかに別室へよんで、「お前の師匠はモウロクしてあんなことを云ったが、まさかお前は長者の招きに進んで応じるほど向う見ずではあるまいな」 こう云われると、オレはムラムラと腹が立った。
その時まで親方の言葉を疑ったり、自分の腕に不安を感じていたのが一時に掻き消えて、顔に血がこみあげた。「オレの腕じゃア不足なほど、夜長の長者は尊い人ですかい。はばかりながら、オレの刻んだ仏像が不足だと
いう寺は天下に一ツもない筈だ」 オレは目もくらみ耳もふさがり、叫びたてるわが姿をトキをつくるのようだと思ったほどだ。アナマロは苦笑した。「相弟子どもと鎮守のホコラを造るのとはワケがちがうぞ。お前が腕
くらべをするのは、お前の師と並んでヒダの三名人とうたわれている青ガサとフル釜だぞ」「青ガサもフル釜も、親方すらも怖ろしいと思うものか。オレが一心不乱にやれば、オレのイノチがオレの造る寺や仏像に宿るだ
けだ」 アナマロはあわれんで溜息をもらすような面持であったが、どう思い直してか、オレを親方の代りに長者の邸へ連れていった。「キサマは仕合せ者だな。キサマの造った品物がオメガネにかなう筈はないが、日本
中の男という男がまだ見ぬ恋に胸をこがしている夜長姫サマの御身ちかくで暮すことができるのだからさ。せいぜい仕事を長びかせて、一時も長く逗留の工夫をめぐらすがよい。どうせかなわぬ仕事の工夫はいらぬことだ
」 道々、アナマロはこんなことを云ってオレをイラだたせた。「どうせかなわぬオレを連れて行くことはありますまい」「そこが虫のカゲンだな。キサマは運のいい奴だ」 オレは旅の途中でアナマロに別れて幾度か立
ち帰ろうと思った。しかし、青ガサやフル釜と技を競う名誉がオレを誘惑した。彼らを怖れて逃げたと思われるのが心外であった。オレは自分に云いきかせた。「一心不乱に、オレのイノチを打ちこんだ仕事をやりとげれ
ばそれでいいのだ。目玉がフシアナ同然の奴らのメガネにかなわなくとも、それがなんだ。オレが刻んだ仏像を道のホコラに安置して、その下に穴を掘って、土に埋もれて死ぬだけのことだ」 たしかにオレは生きて帰ら
ぬような悲痛な覚悟を胸にかためていた。つまりは青ガサやフル釜を怖れる心のせいであろう。正直なところ、自信はなかった。 長者の邸へ着いた翌日、アナマロにみちびかれて奥の庭で、長者に会って挨拶した。長者
2018/12/24(月) 13:24:49.13
。 オレはそれまで親方にほめられたことは一度もなかった。もっとも、誰をほめたこともない親方ではあったが、それにしても、この突然のホメ言葉はオレをまったく驚愕させた。当のオレがそれほどだから、多くの古
い弟子たちが親方はモウロクして途方もないことを口走ってしまったものだと云いふらしたのは、あながち嫉みのせいだけではなかったのである。 夜長の長者の使者アナマロも兄弟子たちの言い分に理があるようだと考
えた。そこでオレをひそかに別室へよんで、「お前の師匠はモウロクしてあんなことを云ったが、まさかお前は長者の招きに進んで応じるほど向う見ずではあるまいな」 こう云われると、オレはムラムラと腹が立った。
その時まで親方の言葉を疑ったり、自分の腕に不安を感じていたのが一時に掻き消えて、顔に血がこみあげた。「オレの腕じゃア不足なほど、夜長の長者は尊い人ですかい。はばかりながら、オレの刻んだ仏像が不足だと
いう寺は天下に一ツもない筈だ」 オレは目もくらみ耳もふさがり、叫びたてるわが姿をトキをつくるのようだと思ったほどだ。アナマロは苦笑した。「相弟子どもと鎮守のホコラを造るのとはワケがちがうぞ。お前が腕
くらべをするのは、お前の師と並んでヒダの三名人とうたわれている青ガサとフル釜だぞ」「青ガサもフル釜も、親方すらも怖ろしいと思うものか。オレが一心不乱にやれば、オレのイノチがオレの造る寺や仏像に宿るだ
けだ」 アナマロはあわれんで溜息をもらすような面持であったが、どう思い直してか、オレを親方の代りに長者の邸へ連れていった。「キサマは仕合せ者だな。キサマの造った品物がオメガネにかなう筈はないが、日本
中の男という男がまだ見ぬ恋に胸をこがしている夜長姫サマの御身ちかくで暮すことができるのだからさ。せいぜい仕事を長びかせて、一時も長く逗留の工夫をめぐらすがよい。どうせかなわぬ仕事の工夫はいらぬことだ
」 道々、アナマロはこんなことを云ってオレをイラだたせた。「どうせかなわぬオレを連れて行くことはありますまい」「そこが虫のカゲンだな。キサマは運のいい奴だ」 オレは旅の途中でアナマロに別れて幾度か立
ち帰ろうと思った。しかし、青ガサやフル釜と技を競う名誉がオレを誘惑した。彼らを怖れて逃げたと思われるのが心外であった。オレは自分に云いきかせた。「一心不乱に、オレのイノチを打ちこんだ仕事をやりとげれ
ばそれでいいのだ。目玉がフシアナ同然の奴らのメガネにかなわなくとも、それがなんだ。オレが刻んだ仏像を道のホコラに安置して、その下に穴を掘って、土に埋もれて死ぬだけのことだ」 たしかにオレは生きて帰ら
ぬような悲痛な覚悟を胸にかためていた。つまりは青ガサやフル釜を怖れる心のせいであろう。正直なところ、自信はなかった。 長者の邸へ着いた翌日、アナマロにみちびかれて奥の庭で、長者に会って挨拶した。長者
はまるまるとふとり、頬がたるんで、福の神のような恰好の人であった。 かたわらに夜長ヒメがいた。長者の頭にシラガが生えそめたころにようやく生れた一粒種だから、一夜ごとに二握りの黄金を百夜にかけてしぼら
せ、したたる露をあつめて産湯をつかわせたと云われていた。その露がしみたために、ヒメの身体は生れながらに光りかがやき、黄金の香りがすると云われていた。 オレは一心不乱にヒメを見つめなければならないと思
った。なぜなら、親方が常にこう言いきかせていたからだ。「珍しい人や物に出会ったときは目を放すな。オレの師匠がそう云っていた。そして、師匠はそのまた師匠にそう云われ、そのまた師匠のそのまた師匠のまたま
た昔の大昔の大親の師匠の代から順くりにそう云われてきたのだぞ。大蛇に足をかまれても、目を放すな」 だからオレは夜長ヒメを見つめた。オレは小心のせいか、覚悟をきめてかからなければ人の顔を見つめることが
できなかった。しかし、気おくれをジッと押えて、見つめているうちに次第に平静にかえる満足を感じたとき、オレは親方の教訓の重大な意味が分ったような気がするのだった。のしかかるように見つめ伏せてはダメだ。
その人やその物とともに、ひと色の水のようにすきとおらなければならないのだ。 オレは夜長ヒメを見つめた。ヒメはまだ十三だった。身体はノビノビと高かったが、子供の香がたちこめていた。威厳はあったが、怖ろ
しくはなかった。オレはむしろ張りつめた力がゆるんだような気がしたが、それはオレが負けたせいかも知れない。そして、オレはヒメを見つめていた筈だが、ヒメのうしろに広々とそびえている乗鞍山《ノリクラヤマ》
が後々まで強くしみて残ってしまった。 アナマロはオレを長者にひき合せて、「これが耳男《ミミオ》でございます。若いながらも師の骨法をすべて会得し、さらに独自の工夫も編みだしたほどの師匠まさりで、青ガサ
い弟子たちが親方はモウロクして途方もないことを口走ってしまったものだと云いふらしたのは、あながち嫉みのせいだけではなかったのである。 夜長の長者の使者アナマロも兄弟子たちの言い分に理があるようだと考
えた。そこでオレをひそかに別室へよんで、「お前の師匠はモウロクしてあんなことを云ったが、まさかお前は長者の招きに進んで応じるほど向う見ずではあるまいな」 こう云われると、オレはムラムラと腹が立った。
その時まで親方の言葉を疑ったり、自分の腕に不安を感じていたのが一時に掻き消えて、顔に血がこみあげた。「オレの腕じゃア不足なほど、夜長の長者は尊い人ですかい。はばかりながら、オレの刻んだ仏像が不足だと
いう寺は天下に一ツもない筈だ」 オレは目もくらみ耳もふさがり、叫びたてるわが姿をトキをつくるのようだと思ったほどだ。アナマロは苦笑した。「相弟子どもと鎮守のホコラを造るのとはワケがちがうぞ。お前が腕
くらべをするのは、お前の師と並んでヒダの三名人とうたわれている青ガサとフル釜だぞ」「青ガサもフル釜も、親方すらも怖ろしいと思うものか。オレが一心不乱にやれば、オレのイノチがオレの造る寺や仏像に宿るだ
けだ」 アナマロはあわれんで溜息をもらすような面持であったが、どう思い直してか、オレを親方の代りに長者の邸へ連れていった。「キサマは仕合せ者だな。キサマの造った品物がオメガネにかなう筈はないが、日本
中の男という男がまだ見ぬ恋に胸をこがしている夜長姫サマの御身ちかくで暮すことができるのだからさ。せいぜい仕事を長びかせて、一時も長く逗留の工夫をめぐらすがよい。どうせかなわぬ仕事の工夫はいらぬことだ
」 道々、アナマロはこんなことを云ってオレをイラだたせた。「どうせかなわぬオレを連れて行くことはありますまい」「そこが虫のカゲンだな。キサマは運のいい奴だ」 オレは旅の途中でアナマロに別れて幾度か立
ち帰ろうと思った。しかし、青ガサやフル釜と技を競う名誉がオレを誘惑した。彼らを怖れて逃げたと思われるのが心外であった。オレは自分に云いきかせた。「一心不乱に、オレのイノチを打ちこんだ仕事をやりとげれ
ばそれでいいのだ。目玉がフシアナ同然の奴らのメガネにかなわなくとも、それがなんだ。オレが刻んだ仏像を道のホコラに安置して、その下に穴を掘って、土に埋もれて死ぬだけのことだ」 たしかにオレは生きて帰ら
ぬような悲痛な覚悟を胸にかためていた。つまりは青ガサやフル釜を怖れる心のせいであろう。正直なところ、自信はなかった。 長者の邸へ着いた翌日、アナマロにみちびかれて奥の庭で、長者に会って挨拶した。長者
はまるまるとふとり、頬がたるんで、福の神のような恰好の人であった。 かたわらに夜長ヒメがいた。長者の頭にシラガが生えそめたころにようやく生れた一粒種だから、一夜ごとに二握りの黄金を百夜にかけてしぼら
せ、したたる露をあつめて産湯をつかわせたと云われていた。その露がしみたために、ヒメの身体は生れながらに光りかがやき、黄金の香りがすると云われていた。 オレは一心不乱にヒメを見つめなければならないと思
った。なぜなら、親方が常にこう言いきかせていたからだ。「珍しい人や物に出会ったときは目を放すな。オレの師匠がそう云っていた。そして、師匠はそのまた師匠にそう云われ、そのまた師匠のそのまた師匠のまたま
た昔の大昔の大親の師匠の代から順くりにそう云われてきたのだぞ。大蛇に足をかまれても、目を放すな」 だからオレは夜長ヒメを見つめた。オレは小心のせいか、覚悟をきめてかからなければ人の顔を見つめることが
できなかった。しかし、気おくれをジッと押えて、見つめているうちに次第に平静にかえる満足を感じたとき、オレは親方の教訓の重大な意味が分ったような気がするのだった。のしかかるように見つめ伏せてはダメだ。
その人やその物とともに、ひと色の水のようにすきとおらなければならないのだ。 オレは夜長ヒメを見つめた。ヒメはまだ十三だった。身体はノビノビと高かったが、子供の香がたちこめていた。威厳はあったが、怖ろ
しくはなかった。オレはむしろ張りつめた力がゆるんだような気がしたが、それはオレが負けたせいかも知れない。そして、オレはヒメを見つめていた筈だが、ヒメのうしろに広々とそびえている乗鞍山《ノリクラヤマ》
が後々まで強くしみて残ってしまった。 アナマロはオレを長者にひき合せて、「これが耳男《ミミオ》でございます。若いながらも師の骨法をすべて会得し、さらに独自の工夫も編みだしたほどの師匠まさりで、青ガサ
2018/12/24(月) 13:25:05.27
人に信心された。 長者がまッさきに打ちこんだ。「耳男があまたの蛇を生き裂きにして逆吊りにかけ生き血をあびながら咒いをこめて造ったバケモノだから、その怖ろしさにホーソー神も近づくことができないのだな」
ヒメの言葉をうけうりして吹聴した。 バケモノは山上の長者の邸の門前から運び降ろされて、山の下の池のフチの三ツ又のにわか造りのホコラの中に鎮座した。遠い村から拝みにくる人も少くなかった。そしてオレは
たちまち名人ともてはやされたが、その上の大評判をとったのは夜長ヒメであった。オレの手になるバケモノが間に合って長者の一家を護ったのもヒメの力によるというのだ。尊い神がヒメの生き身に宿っておられる。尊
い神の化身であるという評判がたちまち村々へひろがった。 山下のホコラへオレのバケモノを拝みにきた人々のうちには、山上の長者の邸の門前へきてぬかずいて拝んで帰る者もあったし、門前へお供え物を置いて行く
者もあった。 ヒメはお供え物のカブや菜ッ葉をオレに示して、言った。「これはお前がうけた物よ。おいしく煮てお食べ」 ヒメの顔はニコニコとかがやいていた。オレはヒメがからかいに来たと見て、ムッとした。そ
して答えた。「天下|名題《なだい》のホトケを造ったヒダのタクミはたくさん居りますが、お供え物をいただいた話はききませんや。生き神様のお供え物にきまっているから、おいしく煮ておあがり下さい」 ヒメの笑
顔はオレの言葉にとりあわなかった。ヒメは言った。「耳男よ。お前が造ったバケモノはほんとうにホーソー神を睨み返してくれたのよ。私は毎日楼の上からそれを見ていたわ」 オレは呆れてヒメの笑顔を見つめた。し
かし、ヒメの心はとうてい量りがたいものであった。 ヒメはさらに云った。「耳男よ。お前が楼にあがって私と同じ物を見ていても、お前のバケモノがホーソー神を睨み返してくれるのを見ることができなかったでしょ
うよ。お前の小屋が燃えたときから、お前の目は見えなくなってしまったから。そして、お前がいまお造りのミロクには、お爺さんやお婆さんの頭痛をやわらげる力もないわ」 ヒメは冴え冴えとオレを見つめた。そして
、ふりむいて立去った。オレの手にカブと菜ッ葉がのこっていた。 オレはヒメの魔法にかけられてトリコになってしまったように思った。怖ろしいヒメだと思った。たしかに人力を超えたヒメかも知れぬと思った。しか
し、オレがいま造っているミロクには爺さん婆さんの頭痛をやわらげる力もないとは、どういうことだろう。「あのバケモノには子供を泣かせる力もないが、ミロクには何かがある筈だ。すくなくともオレという人間のタ
マシイがそッくり乗りうつッているだろう」 オレは確信をもってこう云えるように思ったが、オレの確信の根元からゆりうごかしてくずすものはヒメの笑顔であった。オレが見失ってしまったものが確かにどこかにある
ようにも思われて、たよりなくて、ふと、たまらなく切ない思いを感じるようになってしまった。 ホーソー神が通りすぎて五十日もたたぬうちに、今度はちがった疫病が村をこえ里をこえて渡ってきた。夏がきて、熱い
日ざかりがつづいていた。 また人々は日ざかりに雨戸をおろして神仏に祈ってくらした。しかし、ホーソー神の通るあいだ畑を耕していなかったから、今度も畑を耕さないと食べる物が尽きていた。そこで百姓はおのの
きながら野良へでてクワを振りあげ振りおろしたが、朝は元気で出たのが、日ざかりの畑でキリキリ舞いをしたあげく、しばらく畑を這いまわってことぎれる者も少くなかった。 山の下の三ツ又のバケモノのホコラを拝
みにきて、ホコラの前で死んでいた者もあった。「尊いヒメの神よ。悪病を払いたまえ」 長者の門前へきて、こう祈る者もあった。 長者の邸も再び日ざかりに雨戸をとざして、人々は息をころして暮していた。ヒメだ
けが雨戸をあけ、時に楼上から山下の村を眺めて、死者を見るたびに邸内の全ての者にきかせて歩いた。 オレの小屋へきてヒメが云った。「耳男よ。今日は私が何を見たと思う?」 ヒメの目がいつもにくらべて輝きが
深いようでもあった。ヒメは云った。「バケモノのホコラへ拝みにきて、ホコラの前でキリキリ舞いをして、ホコラにとりすがって死んだお婆さんを見たのよ」 オレは云ってやった。「あのバケモノの奴も今度の疫病神
は睨み返すことができませんでしたかい」 ヒメはそれにとりあわず、静かにこう命じた。「耳男よ。裏の山から蛇をとっておいで。大きな袋にいっぱい」 こう命じたが、オレはヒメに命じられては否応もない。黙って
意のままに動くことしかできないのだ。その蛇で何をするつもりだろうという疑いも、ヒメが立去ってからでないとオレの頭に浮かばなかった。 オレは裏の山にわけこんで、あまたの蛇をとった。去年の今ごろも、その
ヒメの言葉をうけうりして吹聴した。 バケモノは山上の長者の邸の門前から運び降ろされて、山の下の池のフチの三ツ又のにわか造りのホコラの中に鎮座した。遠い村から拝みにくる人も少くなかった。そしてオレは
たちまち名人ともてはやされたが、その上の大評判をとったのは夜長ヒメであった。オレの手になるバケモノが間に合って長者の一家を護ったのもヒメの力によるというのだ。尊い神がヒメの生き身に宿っておられる。尊
い神の化身であるという評判がたちまち村々へひろがった。 山下のホコラへオレのバケモノを拝みにきた人々のうちには、山上の長者の邸の門前へきてぬかずいて拝んで帰る者もあったし、門前へお供え物を置いて行く
者もあった。 ヒメはお供え物のカブや菜ッ葉をオレに示して、言った。「これはお前がうけた物よ。おいしく煮てお食べ」 ヒメの顔はニコニコとかがやいていた。オレはヒメがからかいに来たと見て、ムッとした。そ
して答えた。「天下|名題《なだい》のホトケを造ったヒダのタクミはたくさん居りますが、お供え物をいただいた話はききませんや。生き神様のお供え物にきまっているから、おいしく煮ておあがり下さい」 ヒメの笑
顔はオレの言葉にとりあわなかった。ヒメは言った。「耳男よ。お前が造ったバケモノはほんとうにホーソー神を睨み返してくれたのよ。私は毎日楼の上からそれを見ていたわ」 オレは呆れてヒメの笑顔を見つめた。し
かし、ヒメの心はとうてい量りがたいものであった。 ヒメはさらに云った。「耳男よ。お前が楼にあがって私と同じ物を見ていても、お前のバケモノがホーソー神を睨み返してくれるのを見ることができなかったでしょ
うよ。お前の小屋が燃えたときから、お前の目は見えなくなってしまったから。そして、お前がいまお造りのミロクには、お爺さんやお婆さんの頭痛をやわらげる力もないわ」 ヒメは冴え冴えとオレを見つめた。そして
、ふりむいて立去った。オレの手にカブと菜ッ葉がのこっていた。 オレはヒメの魔法にかけられてトリコになってしまったように思った。怖ろしいヒメだと思った。たしかに人力を超えたヒメかも知れぬと思った。しか
し、オレがいま造っているミロクには爺さん婆さんの頭痛をやわらげる力もないとは、どういうことだろう。「あのバケモノには子供を泣かせる力もないが、ミロクには何かがある筈だ。すくなくともオレという人間のタ
マシイがそッくり乗りうつッているだろう」 オレは確信をもってこう云えるように思ったが、オレの確信の根元からゆりうごかしてくずすものはヒメの笑顔であった。オレが見失ってしまったものが確かにどこかにある
ようにも思われて、たよりなくて、ふと、たまらなく切ない思いを感じるようになってしまった。 ホーソー神が通りすぎて五十日もたたぬうちに、今度はちがった疫病が村をこえ里をこえて渡ってきた。夏がきて、熱い
日ざかりがつづいていた。 また人々は日ざかりに雨戸をおろして神仏に祈ってくらした。しかし、ホーソー神の通るあいだ畑を耕していなかったから、今度も畑を耕さないと食べる物が尽きていた。そこで百姓はおのの
きながら野良へでてクワを振りあげ振りおろしたが、朝は元気で出たのが、日ざかりの畑でキリキリ舞いをしたあげく、しばらく畑を這いまわってことぎれる者も少くなかった。 山の下の三ツ又のバケモノのホコラを拝
みにきて、ホコラの前で死んでいた者もあった。「尊いヒメの神よ。悪病を払いたまえ」 長者の門前へきて、こう祈る者もあった。 長者の邸も再び日ざかりに雨戸をとざして、人々は息をころして暮していた。ヒメだ
けが雨戸をあけ、時に楼上から山下の村を眺めて、死者を見るたびに邸内の全ての者にきかせて歩いた。 オレの小屋へきてヒメが云った。「耳男よ。今日は私が何を見たと思う?」 ヒメの目がいつもにくらべて輝きが
深いようでもあった。ヒメは云った。「バケモノのホコラへ拝みにきて、ホコラの前でキリキリ舞いをして、ホコラにとりすがって死んだお婆さんを見たのよ」 オレは云ってやった。「あのバケモノの奴も今度の疫病神
は睨み返すことができませんでしたかい」 ヒメはそれにとりあわず、静かにこう命じた。「耳男よ。裏の山から蛇をとっておいで。大きな袋にいっぱい」 こう命じたが、オレはヒメに命じられては否応もない。黙って
意のままに動くことしかできないのだ。その蛇で何をするつもりだろうという疑いも、ヒメが立去ってからでないとオレの頭に浮かばなかった。 オレは裏の山にわけこんで、あまたの蛇をとった。去年の今ごろも、その
2018/12/24(月) 13:25:21.39
らあがって奥の間へみちびかれて匆々《そうそう》にヒメはオレを殺すであろう。蛇のようにオレを裂いて逆さに吊すかも知れないと思った。そう思うと恐怖に息の根がとまりかけて、オレは思わず必死に合掌の一念であ
ったが、真に泣き悶えて合掌したところで、あの笑顔が何を受けつけてくれるものでもあるまい。 この運命をきりぬけるには、ともかくこの一ツの方法があるだけだとオレは考えた。それはオレのタクミとしての必死の
願望にもかなっていた。とにかくヒメに頼んでみようとオレは思った。そして、こう心がきまると、オレはようやく風呂からあがることができた。 オレは奥の間へみちびかれた。長者がヒメをしたがえて現れた。オレは
挨拶ももどかしく、ヒタイを下にすりつけて、必死に叫んだ。オレは顔をあげる力がなかったのだ。「今生のお願いでございます。お姫サマのお顔お姿を刻ませて下さいませ。それを刻み残せば、あとはいつ死のうとも悔
いはございません」 意外にもアッサリと長者の返答があった。「ヒメがそれに同意なら、願ってもないことだ。ヒメよ。異存はないか」 それに答えたヒメの言葉もアッサリと、これまた意外千万であった。「私が耳男
にそれを頼むつもりでしたの。耳男が望むなら申分ございません」「それは、よかった」 長者は大そう喜んで思わず大声で叫んだが、オレに向って、やさしく云った。「耳男よ。顔をあげよ。三年の間、御苦労だった。
お前のミロクは皮肉の作だが、彫りの気魄、凡手の作ではない。ことのほかヒメが気に入ったようだから、それだけでオレは満足のほかにつけ加える言葉はない。よく、やってくれた」 長者とヒメはオレに数々のヒキデ
モノをくれた。そのとき、長者がつけ加えて、言った。「ヒメの気に入った像を造った者にはエナコを与えると約束したが、エナコは死んでしまったから、この約束だけは果してやれなくなったのが残念だ」 すると、そ
れをひきとって、ヒメが言った。「エナコは耳男の耳を斬り落した懐剣でノドをついて死んでいたのよ。血にそまったエナコの着物は耳男がいま下着にして身につけているのがそれよ。身代りに着せてあげるために、男物
に仕立て直しておいたのです」 オレはもうこれしきのことでは驚かなくなっていたが、長者の顔が蒼ざめた。ヒメはニコニコとオレを見つめていた。 そのころ、この山奥にまでホーソーがはやり、あの村にも、この里
にも、死ぬ者がキリもなかった。疫病はついにこの村にも押し寄せたから、家ごとに疫病除けの護符をはり、白昼もかたく戸を閉して、一家ヒタイを集めて日夜神仏に祈っていたが、悪魔はどの隙間から忍びこんでくるも
のやら、日ましに死ぬ者が多くなる一方だった。 長者の家でも広い邸内の雨戸をおろして家族は日中も息を殺していたが、ヒメの部屋だけは、ヒメが雨戸を閉めさせなかった。「耳男の造ったバケモノの像は、耳男が無
数の蛇を裂き殺して逆吊りにして、生き血をあびながら咒いをこめて刻んだバケモノだから、疫病よけのマジナイぐらいにはなるらしいわ。ほかに取得もなさそうなバケモノだから、門の外へ飾ってごらん」 ヒメは人に
命じて、ズシごと門前へすえさせた。長者の邸には高楼があった。ヒメは時々高楼にのぼって村を眺めたが、村はずれの森の中に死者をすてに行くために運ぶ者の姿を見ると、ヒメは一日は充ち足りた様子であった。 オ
レは青ガサが残した小屋で、今度こそヒメの持仏のミロクの像に精魂かたむけていた。ホトケの顔にヒメの笑顔をうつすのがオレの考えであった。 この邸内で人間らしくうごいているのは、ヒメとオレの二人だけであっ
た。 ミロクにヒメの笑顔をうつして持仏を刻んでいるときいてヒメは一応満足の風ではあったが、実はオレの仕事を気にかけている様子はなかった。ヒメはオレの仕事のはかどりを見に来たことはついぞなかった。小屋
に姿を現すのは、死者を森へすてに行く人群れを見かけたときにきまっていた。特にオレを選んでそれをきかせに来るのではなく、邸内の一人々々にもれなく聞かせてまわるのがヒメのたのしみの様子であった。「今日も
死んだ人があるのよ」 それをきかせるときも、ニコニコとたのしそうであった。ついでに仏像の出来ぐあいを見て行くようなことはなかった。それには一目もくれなかった。そして長くはとどまらなかった。 オレはヒ
メになぶられているのではないかと疑っていた。さりげない風を見せているが、実はやっぱり元日にオレを殺すつもりであったに相違ないとオレは時々考えた。なぜなら、ヒメはオレの造ったバケモノを疫病よけに門前へ
すえさせたとき、「耳男が無数の蛇を裂き殺して逆さに吊り、蛇の生き血をあびながら咒いをかけて刻んだバケモノだから、疫病よけのマジナイぐらいにはなりそうね。ほかに取得もなさそうですから、門の前へ飾ってご
ったが、真に泣き悶えて合掌したところで、あの笑顔が何を受けつけてくれるものでもあるまい。 この運命をきりぬけるには、ともかくこの一ツの方法があるだけだとオレは考えた。それはオレのタクミとしての必死の
願望にもかなっていた。とにかくヒメに頼んでみようとオレは思った。そして、こう心がきまると、オレはようやく風呂からあがることができた。 オレは奥の間へみちびかれた。長者がヒメをしたがえて現れた。オレは
挨拶ももどかしく、ヒタイを下にすりつけて、必死に叫んだ。オレは顔をあげる力がなかったのだ。「今生のお願いでございます。お姫サマのお顔お姿を刻ませて下さいませ。それを刻み残せば、あとはいつ死のうとも悔
いはございません」 意外にもアッサリと長者の返答があった。「ヒメがそれに同意なら、願ってもないことだ。ヒメよ。異存はないか」 それに答えたヒメの言葉もアッサリと、これまた意外千万であった。「私が耳男
にそれを頼むつもりでしたの。耳男が望むなら申分ございません」「それは、よかった」 長者は大そう喜んで思わず大声で叫んだが、オレに向って、やさしく云った。「耳男よ。顔をあげよ。三年の間、御苦労だった。
お前のミロクは皮肉の作だが、彫りの気魄、凡手の作ではない。ことのほかヒメが気に入ったようだから、それだけでオレは満足のほかにつけ加える言葉はない。よく、やってくれた」 長者とヒメはオレに数々のヒキデ
モノをくれた。そのとき、長者がつけ加えて、言った。「ヒメの気に入った像を造った者にはエナコを与えると約束したが、エナコは死んでしまったから、この約束だけは果してやれなくなったのが残念だ」 すると、そ
れをひきとって、ヒメが言った。「エナコは耳男の耳を斬り落した懐剣でノドをついて死んでいたのよ。血にそまったエナコの着物は耳男がいま下着にして身につけているのがそれよ。身代りに着せてあげるために、男物
に仕立て直しておいたのです」 オレはもうこれしきのことでは驚かなくなっていたが、長者の顔が蒼ざめた。ヒメはニコニコとオレを見つめていた。 そのころ、この山奥にまでホーソーがはやり、あの村にも、この里
にも、死ぬ者がキリもなかった。疫病はついにこの村にも押し寄せたから、家ごとに疫病除けの護符をはり、白昼もかたく戸を閉して、一家ヒタイを集めて日夜神仏に祈っていたが、悪魔はどの隙間から忍びこんでくるも
のやら、日ましに死ぬ者が多くなる一方だった。 長者の家でも広い邸内の雨戸をおろして家族は日中も息を殺していたが、ヒメの部屋だけは、ヒメが雨戸を閉めさせなかった。「耳男の造ったバケモノの像は、耳男が無
数の蛇を裂き殺して逆吊りにして、生き血をあびながら咒いをこめて刻んだバケモノだから、疫病よけのマジナイぐらいにはなるらしいわ。ほかに取得もなさそうなバケモノだから、門の外へ飾ってごらん」 ヒメは人に
命じて、ズシごと門前へすえさせた。長者の邸には高楼があった。ヒメは時々高楼にのぼって村を眺めたが、村はずれの森の中に死者をすてに行くために運ぶ者の姿を見ると、ヒメは一日は充ち足りた様子であった。 オ
レは青ガサが残した小屋で、今度こそヒメの持仏のミロクの像に精魂かたむけていた。ホトケの顔にヒメの笑顔をうつすのがオレの考えであった。 この邸内で人間らしくうごいているのは、ヒメとオレの二人だけであっ
た。 ミロクにヒメの笑顔をうつして持仏を刻んでいるときいてヒメは一応満足の風ではあったが、実はオレの仕事を気にかけている様子はなかった。ヒメはオレの仕事のはかどりを見に来たことはついぞなかった。小屋
に姿を現すのは、死者を森へすてに行く人群れを見かけたときにきまっていた。特にオレを選んでそれをきかせに来るのではなく、邸内の一人々々にもれなく聞かせてまわるのがヒメのたのしみの様子であった。「今日も
死んだ人があるのよ」 それをきかせるときも、ニコニコとたのしそうであった。ついでに仏像の出来ぐあいを見て行くようなことはなかった。それには一目もくれなかった。そして長くはとどまらなかった。 オレはヒ
メになぶられているのではないかと疑っていた。さりげない風を見せているが、実はやっぱり元日にオレを殺すつもりであったに相違ないとオレは時々考えた。なぜなら、ヒメはオレの造ったバケモノを疫病よけに門前へ
すえさせたとき、「耳男が無数の蛇を裂き殺して逆さに吊り、蛇の生き血をあびながら咒いをかけて刻んだバケモノだから、疫病よけのマジナイぐらいにはなりそうね。ほかに取得もなさそうですから、門の前へ飾ってご
2018/12/24(月) 13:25:39.02
の怖ろしい噂を時たま聞くことがあっても、オレにとっては別天地の出来事で、身にしみる思いに打たれたことはなかった。オレのバケモノが魔よけの神様にまつりあげられ、オレが名人ともてはやされていると聞いても
、それすらも別天地の出来事であった。 オレははじめて高楼から村を眺めた。それは裏の山から村を見下す風景の距離をちぢめただけのものだが、バケモノのホコラにすがりついて死んでいる人の姿を見ると、それもわ
が身にかかわりのないソラゾラしい眺めながらも、人里の哀れさが目にしみもした。あんなバケモノが魔よけの役に立たないのは分りきっているのに、そのホコラにすがりついて死ぬ人があるとは罪な話だ。いッそ焼き払
、それすらも別天地の出来事であった。 オレははじめて高楼から村を眺めた。それは裏の山から村を見下す風景の距離をちぢめただけのものだが、バケモノのホコラにすがりついて死んでいる人の姿を見ると、それもわ
が身にかかわりのないソラゾラしい眺めながらも、人里の哀れさが目にしみもした。あんなバケモノが魔よけの役に立たないのは分りきっているのに、そのホコラにすがりついて死ぬ人があるとは罪な話だ。いッそ焼き払
2018/12/24(月) 13:25:55.08
時から仕事に命を打込むものと叩きこまれているのだ。仕事のほかには命をすてる心当りもないが、腕くらべを怖れて逃げだしたと云われるよりは、そッちの方を選ぼうじゃありませんか」「長生きすれば、天下のタクミ
と世にうたわれる名人になる見込みのある奴だが、まだ若いな。一時の恥は、長生きすればそそがれるぞ」「よけいなことは、もう、よしてくれ。オレはここへ来たときから、生きて帰ることは忘れていたのさ」 アナマ
ロはあきらめた。すると、にわかに冷淡だった。「オレにつづいて参れ」 彼は先に立ってズンズン歩いた。 奥の庭へみちびかれた。縁先の土の上にムシロがしかれていた。それがオレの席であった。 オレと向い合せ
にエナコが控えていた。後手にいましめられて、じかに土の上に坐っていた。 オレの跫音《あしおと》をききつけて、エナコは首をあげた。そして、いましめを解けば跳びかかる犬のようにオレを睨んで目を放さなかっ
た。小癪な奴め、とオレは思った。「耳を斬り落されたオレが女を憎むならワケは分るが、女がオレを憎むとはワケが分らないな」 こう考えてオレはふと気がついたが、耳の痛みがとれてからは、この女を思いだしたこ
ともなかった。「考えてみるとフシギだな。オレのようなカンシャク持ちが、オレの耳を斬り落した女を咒《のろ》わないとは奇妙なことだ。オレは誰かに耳を斬り落されたことは考えても、斬り落したのがこの女だと考
えたことはめッたにない。あべこべに、女の奴めがオレを仇のように憎みきっているというのが腑に落ちないぞ」 オレの咒いの一念はあげて魔神を刻むことにこめられているから、小癪な女一匹を考えるヒマがなかった
のだろう。オレは十五の歳に仲間の一人に屋根から突き落されて手と足の骨を折ったことがある。この仲間はササイなことでオレに恨みを持っていたのだ。オレは骨を折ったので三ヵ月ほど大工の仕事はできなかったが、
親方はオレがたった一日といえども仕事を休むことを許さなかった。オレは片手と片足で、欄間のホリモノをきざまなければならなかった。骨折の怪我というものは、夜も眠ることができないほど痛むものだ。オレは泣き
泣きノミをふるッていたが、泣き泣き眠ることができない長夜の苦しみよりも、泣き泣き仕事する日中の凌ぎよいことが分ってきた。折からの満月を幸いに、夜中に起きてノミをふるい、痛さに堪えかねて悶え泣いたこと
もあったし、手をすべらせてモモにノミを突きたててしまったこともあったが、苦しみに超えたものは仕事だけだということを、あの時ほどマザ/\と思い知らされたことはない。片手片足でほった欄間だが、両手両足が
使えるようになってから眺め直して、特に手を入れる必要もなかった。 その時のことが身にしみているから、片耳を斬り落された痛みぐらいは、仕事の励みになっただけだ。今に思い知らせてやるぞと考えた。そして、
いやが上にも怖ろしい魔神の姿を思いめぐらしてゾクゾクしたが、思い知らせてやるのがこの女だとは考えたことがなかったようだ。「オレが女を咒わないのは、ワケが分るフシもあるような気がするが、女がオレを仇の
ように憎むのはワケが分らない。ひょッとすると、長者があんなことを云ったから、オレが女をほしがっていると思って咒っているのかも知れないな」 こう考えると、ワケが分ってきたように思われた。そこでムラムラ
と怒りがこみあげた。バカな女め。キサマ欲しさに仕事をするオレと思うか。連れて帰れと云われても、肩に落ちた毛虫のように手で払って捨てて行くだけのことだ。こう考えたから、オレの心は落附いた。「耳男をつれ
て参りました」 アナマロが室内に向って大声で叫んだ。するとスダレの向うに気配があって、着席した長者が云った。「アナマロはあるか」「これにおります」「耳男に沙汰を申し伝えよ」「かしこまりました」 アナ
マロはオレを睨みつけて、次のように申し渡した。「当家の女奴隷が耳男の片耳をそぎ落したときこえては、ヒダのタクミ一同にも、ヒダの国人一同にも申訳が立たない。よってエナコを死罪に処するが、耳男が仇をうけ
た当人だから、耳男の斧で首を打たせる。耳男、うて」 オレはこれをきいて、エナコがオレを仇のように睨むのは道理と思った。この疑いがはれてしまえば、あとは気にかかるものもない。オレは云ってやった。「御親
切は痛みいるが、それには及びますまい」「うてぬか」 オレはスックと立ってみせた。斧をとってズカズカと進み、エナコの直前で一睨み、凄みをきかせて睨みつけてやった。 エナコの後へまわると、斧を当てて縄を
ブツブツ切った。そして、元の座へさッさと戻ってきた。オレはわざと何も言わなかった。 アナマロが笑って云った。「エナコの死に首よりも生き首がほしいか」 これをきくとオレの顔に血がのぼった。「たわけたこ
と世にうたわれる名人になる見込みのある奴だが、まだ若いな。一時の恥は、長生きすればそそがれるぞ」「よけいなことは、もう、よしてくれ。オレはここへ来たときから、生きて帰ることは忘れていたのさ」 アナマ
ロはあきらめた。すると、にわかに冷淡だった。「オレにつづいて参れ」 彼は先に立ってズンズン歩いた。 奥の庭へみちびかれた。縁先の土の上にムシロがしかれていた。それがオレの席であった。 オレと向い合せ
にエナコが控えていた。後手にいましめられて、じかに土の上に坐っていた。 オレの跫音《あしおと》をききつけて、エナコは首をあげた。そして、いましめを解けば跳びかかる犬のようにオレを睨んで目を放さなかっ
た。小癪な奴め、とオレは思った。「耳を斬り落されたオレが女を憎むならワケは分るが、女がオレを憎むとはワケが分らないな」 こう考えてオレはふと気がついたが、耳の痛みがとれてからは、この女を思いだしたこ
ともなかった。「考えてみるとフシギだな。オレのようなカンシャク持ちが、オレの耳を斬り落した女を咒《のろ》わないとは奇妙なことだ。オレは誰かに耳を斬り落されたことは考えても、斬り落したのがこの女だと考
えたことはめッたにない。あべこべに、女の奴めがオレを仇のように憎みきっているというのが腑に落ちないぞ」 オレの咒いの一念はあげて魔神を刻むことにこめられているから、小癪な女一匹を考えるヒマがなかった
のだろう。オレは十五の歳に仲間の一人に屋根から突き落されて手と足の骨を折ったことがある。この仲間はササイなことでオレに恨みを持っていたのだ。オレは骨を折ったので三ヵ月ほど大工の仕事はできなかったが、
親方はオレがたった一日といえども仕事を休むことを許さなかった。オレは片手と片足で、欄間のホリモノをきざまなければならなかった。骨折の怪我というものは、夜も眠ることができないほど痛むものだ。オレは泣き
泣きノミをふるッていたが、泣き泣き眠ることができない長夜の苦しみよりも、泣き泣き仕事する日中の凌ぎよいことが分ってきた。折からの満月を幸いに、夜中に起きてノミをふるい、痛さに堪えかねて悶え泣いたこと
もあったし、手をすべらせてモモにノミを突きたててしまったこともあったが、苦しみに超えたものは仕事だけだということを、あの時ほどマザ/\と思い知らされたことはない。片手片足でほった欄間だが、両手両足が
使えるようになってから眺め直して、特に手を入れる必要もなかった。 その時のことが身にしみているから、片耳を斬り落された痛みぐらいは、仕事の励みになっただけだ。今に思い知らせてやるぞと考えた。そして、
いやが上にも怖ろしい魔神の姿を思いめぐらしてゾクゾクしたが、思い知らせてやるのがこの女だとは考えたことがなかったようだ。「オレが女を咒わないのは、ワケが分るフシもあるような気がするが、女がオレを仇の
ように憎むのはワケが分らない。ひょッとすると、長者があんなことを云ったから、オレが女をほしがっていると思って咒っているのかも知れないな」 こう考えると、ワケが分ってきたように思われた。そこでムラムラ
と怒りがこみあげた。バカな女め。キサマ欲しさに仕事をするオレと思うか。連れて帰れと云われても、肩に落ちた毛虫のように手で払って捨てて行くだけのことだ。こう考えたから、オレの心は落附いた。「耳男をつれ
て参りました」 アナマロが室内に向って大声で叫んだ。するとスダレの向うに気配があって、着席した長者が云った。「アナマロはあるか」「これにおります」「耳男に沙汰を申し伝えよ」「かしこまりました」 アナ
マロはオレを睨みつけて、次のように申し渡した。「当家の女奴隷が耳男の片耳をそぎ落したときこえては、ヒダのタクミ一同にも、ヒダの国人一同にも申訳が立たない。よってエナコを死罪に処するが、耳男が仇をうけ
た当人だから、耳男の斧で首を打たせる。耳男、うて」 オレはこれをきいて、エナコがオレを仇のように睨むのは道理と思った。この疑いがはれてしまえば、あとは気にかかるものもない。オレは云ってやった。「御親
切は痛みいるが、それには及びますまい」「うてぬか」 オレはスックと立ってみせた。斧をとってズカズカと進み、エナコの直前で一睨み、凄みをきかせて睨みつけてやった。 エナコの後へまわると、斧を当てて縄を
ブツブツ切った。そして、元の座へさッさと戻ってきた。オレはわざと何も言わなかった。 アナマロが笑って云った。「エナコの死に首よりも生き首がほしいか」 これをきくとオレの顔に血がのぼった。「たわけたこ
2018/12/24(月) 13:26:03.22
来るのはえーよ
2018/12/24(月) 13:26:28.00
メになぶられているのではないかと疑っていた。さりげない風を見せているが、実はやっぱり元日にオレを殺すつもりであったに相違ないとオレは時々考えた。なぜなら、ヒメはオレの造ったバケモノを疫病よけに門前へ
すえさせたとき、「耳男が無数の蛇を裂き殺して逆さに吊り、蛇の生き血をあびながら咒いをかけて刻んだバケモノだから、疫病よけのマジナイぐらいにはなりそうね。ほかに取得もなさそうですから、門の前へ飾ってご
らん」 と云ったそうだ。オレはそれを人づてにきいて、思わずすくんでしまったものだ。オレが咒いをかけて刻んだことまで知りぬいていて、オレを生かしておくヒメが怖ろしいと思った。三人のタクミの作からオレの
すえさせたとき、「耳男が無数の蛇を裂き殺して逆さに吊り、蛇の生き血をあびながら咒いをかけて刻んだバケモノだから、疫病よけのマジナイぐらいにはなりそうね。ほかに取得もなさそうですから、門の前へ飾ってご
らん」 と云ったそうだ。オレはそれを人づてにきいて、思わずすくんでしまったものだ。オレが咒いをかけて刻んだことまで知りぬいていて、オレを生かしておくヒメが怖ろしいと思った。三人のタクミの作からオレの
2018/12/24(月) 13:26:43.92
と世にうたわれる名人になる見込みのある奴だが、まだ若いな。一時の恥は、長生きすればそそがれるぞ」「よけいなことは、もう、よしてくれ。オレはここへ来たときから、生きて帰ることは忘れていたのさ」 アナマ
ロはあきらめた。すると、にわかに冷淡だった。「オレにつづいて参れ」 彼は先に立ってズンズン歩いた。 奥の庭へみちびかれた。縁先の土の上にムシロがしかれていた。それがオレの席であった。 オレと向い合せ
にエナコが控えていた。後手にいましめられて、じかに土の上に坐っていた。 オレの跫音《あしおと》をききつけて、エナコは首をあげた。そして、いましめを解けば跳びかかる犬のようにオレを睨んで目を放さなかっ
た。小癪な奴め、とオレは思った。「耳を斬り落されたオレが女を憎むならワケは分るが、女がオレを憎むとはワケが分らないな」 こう考えてオレはふと気がついたが、耳の痛みがとれてからは、この女を思いだしたこ
ともなかった。「考えてみるとフシギだな。オレのようなカンシャク持ちが、オレの耳を斬り落した女を咒《のろ》わないとは奇妙なことだ。オレは誰かに耳を斬り落されたことは考えても、斬り落したのがこの女だと考
えたことはめッたにない。あべこべに、女の奴めがオレを仇のように憎みきっているというのが腑に落ちないぞ」 オレの咒いの一念はあげて魔神を刻むことにこめられているから、小癪な女一匹を考えるヒマがなかった
のだろう。オレは十五の歳に仲間の一人に屋根から突き落されて手と足の骨を折ったことがある。この仲間はササイなことでオレに恨みを持っていたのだ。オレは骨を折ったので三ヵ月ほど大工の仕事はできなかったが、
親方はオレがたった一日といえども仕事を休むことを許さなかった。オレは片手と片足で、欄間のホリモノをきざまなければならなかった。骨折の怪我というものは、夜も眠ることができないほど痛むものだ。オレは泣き
泣きノミをふるッていたが、泣き泣き眠ることができない長夜の苦しみよりも、泣き泣き仕事する日中の凌ぎよいことが分ってきた。折からの満月を幸いに、夜中に起きてノミをふるい、痛さに堪えかねて悶え泣いたこと
もあったし、手をすべらせてモモにノミを突きたててしまったこともあったが、苦しみに超えたものは仕事だけだということを、あの時ほどマザ/\と思い知らされたことはない。片手片足でほった欄間だが、両手両足が
使えるようになってから眺め直して、特に手を入れる必要もなかった。 その時のことが身にしみているから、片耳を斬り落された痛みぐらいは、仕事の励みになっただけだ。今に思い知らせてやるぞと考えた。そして、
いやが上にも怖ろしい魔神の姿を思いめぐらしてゾクゾクしたが、思い知らせてやるのがこの女だとは考えたことがなかったようだ。「オレが女を咒わないのは、ワケが分るフシもあるような気がするが、女がオレを仇の
ように憎むのはワケが分らない。ひょッとすると、長者があんなことを云ったから、オレが女をほしがっていると思って咒っているのかも知れないな」 こう考えると、ワケが分ってきたように思われた。そこでムラムラ
と怒りがこみあげた。バカな女め。キサマ欲しさに仕事をするオレと思うか。連れて帰れと云われても、肩に落ちた毛虫のように手で払って捨てて行くだけのことだ。こう考えたから、オレの心は落附いた。「耳男をつれ
て参りました」 アナマロが室内に向って大声で叫んだ。するとスダレの向うに気配があって、着席した長者が云った。「アナマロはあるか」「これにおります」「耳男に沙汰を申し伝えよ」「かしこまりました」 アナ
マロはオレを睨みつけて、次のように申し渡した。「当家の女奴隷が耳男の片耳をそぎ落したときこえては、ヒダのタクミ一同にも、ヒダの国人一同にも申訳が立たない。よってエナコを死罪に処するが、耳男が仇をうけ
た当人だから、耳男の斧で首を打たせる。耳男、うて」 オレはこれをきいて、エナコがオレを仇のように睨むのは道理と思った。この疑いがはれてしまえば、あとは気にかかるものもない。オレは云ってやった。「御親
切は痛みいるが、それには及びますまい」「うてぬか」 オレはスックと立ってみせた。斧をとってズカズカと進み、エナコの直前で一睨み、凄みをきかせて睨みつけてやった。 エナコの後へまわると、斧を当てて縄を
ブツブツ切った。そして、元の座へさッさと戻ってきた。オレはわざと何も言わなかった。 アナマロが笑って云った。「エナコの死に首よりも生き首がほしいか」 これをきくとオレの顔に血がのぼった。「たわけたこ
とを。虫ケラ同然のハタ織女にヒダの耳男はてんでハナもひッかけやしねえや。東国の森に棲む虫ケラに耳をかまれただけだと思えば腹も立たない道理じゃないか。虫ケラの死に首も生き首も欲しかアねえや」 こう喚い
ロはあきらめた。すると、にわかに冷淡だった。「オレにつづいて参れ」 彼は先に立ってズンズン歩いた。 奥の庭へみちびかれた。縁先の土の上にムシロがしかれていた。それがオレの席であった。 オレと向い合せ
にエナコが控えていた。後手にいましめられて、じかに土の上に坐っていた。 オレの跫音《あしおと》をききつけて、エナコは首をあげた。そして、いましめを解けば跳びかかる犬のようにオレを睨んで目を放さなかっ
た。小癪な奴め、とオレは思った。「耳を斬り落されたオレが女を憎むならワケは分るが、女がオレを憎むとはワケが分らないな」 こう考えてオレはふと気がついたが、耳の痛みがとれてからは、この女を思いだしたこ
ともなかった。「考えてみるとフシギだな。オレのようなカンシャク持ちが、オレの耳を斬り落した女を咒《のろ》わないとは奇妙なことだ。オレは誰かに耳を斬り落されたことは考えても、斬り落したのがこの女だと考
えたことはめッたにない。あべこべに、女の奴めがオレを仇のように憎みきっているというのが腑に落ちないぞ」 オレの咒いの一念はあげて魔神を刻むことにこめられているから、小癪な女一匹を考えるヒマがなかった
のだろう。オレは十五の歳に仲間の一人に屋根から突き落されて手と足の骨を折ったことがある。この仲間はササイなことでオレに恨みを持っていたのだ。オレは骨を折ったので三ヵ月ほど大工の仕事はできなかったが、
親方はオレがたった一日といえども仕事を休むことを許さなかった。オレは片手と片足で、欄間のホリモノをきざまなければならなかった。骨折の怪我というものは、夜も眠ることができないほど痛むものだ。オレは泣き
泣きノミをふるッていたが、泣き泣き眠ることができない長夜の苦しみよりも、泣き泣き仕事する日中の凌ぎよいことが分ってきた。折からの満月を幸いに、夜中に起きてノミをふるい、痛さに堪えかねて悶え泣いたこと
もあったし、手をすべらせてモモにノミを突きたててしまったこともあったが、苦しみに超えたものは仕事だけだということを、あの時ほどマザ/\と思い知らされたことはない。片手片足でほった欄間だが、両手両足が
使えるようになってから眺め直して、特に手を入れる必要もなかった。 その時のことが身にしみているから、片耳を斬り落された痛みぐらいは、仕事の励みになっただけだ。今に思い知らせてやるぞと考えた。そして、
いやが上にも怖ろしい魔神の姿を思いめぐらしてゾクゾクしたが、思い知らせてやるのがこの女だとは考えたことがなかったようだ。「オレが女を咒わないのは、ワケが分るフシもあるような気がするが、女がオレを仇の
ように憎むのはワケが分らない。ひょッとすると、長者があんなことを云ったから、オレが女をほしがっていると思って咒っているのかも知れないな」 こう考えると、ワケが分ってきたように思われた。そこでムラムラ
と怒りがこみあげた。バカな女め。キサマ欲しさに仕事をするオレと思うか。連れて帰れと云われても、肩に落ちた毛虫のように手で払って捨てて行くだけのことだ。こう考えたから、オレの心は落附いた。「耳男をつれ
て参りました」 アナマロが室内に向って大声で叫んだ。するとスダレの向うに気配があって、着席した長者が云った。「アナマロはあるか」「これにおります」「耳男に沙汰を申し伝えよ」「かしこまりました」 アナ
マロはオレを睨みつけて、次のように申し渡した。「当家の女奴隷が耳男の片耳をそぎ落したときこえては、ヒダのタクミ一同にも、ヒダの国人一同にも申訳が立たない。よってエナコを死罪に処するが、耳男が仇をうけ
た当人だから、耳男の斧で首を打たせる。耳男、うて」 オレはこれをきいて、エナコがオレを仇のように睨むのは道理と思った。この疑いがはれてしまえば、あとは気にかかるものもない。オレは云ってやった。「御親
切は痛みいるが、それには及びますまい」「うてぬか」 オレはスックと立ってみせた。斧をとってズカズカと進み、エナコの直前で一睨み、凄みをきかせて睨みつけてやった。 エナコの後へまわると、斧を当てて縄を
ブツブツ切った。そして、元の座へさッさと戻ってきた。オレはわざと何も言わなかった。 アナマロが笑って云った。「エナコの死に首よりも生き首がほしいか」 これをきくとオレの顔に血がのぼった。「たわけたこ
とを。虫ケラ同然のハタ織女にヒダの耳男はてんでハナもひッかけやしねえや。東国の森に棲む虫ケラに耳をかまれただけだと思えば腹も立たない道理じゃないか。虫ケラの死に首も生き首も欲しかアねえや」 こう喚い
2018/12/24(月) 13:27:00.06
こえて、大きな森をこえて、泉の湧く里から来たハタを織る女だと? それは珍しい動物だ」 オレの目はエナコの顔から放れなかったが、一心不乱ではなかった。なぜなら、オレは驚愕と怒りを抑えた代りに、嘲りが宿
ってしまったのを、いかんともすることができなかったから。 その嘲りをエナコに向けるのは不当であると気がついていたが、オレの目をエナコに向けてそこから放すことができなければ、目に宿る嘲りもエナコの顔に
向けるほかにどう仕様もない。 エナコはオレの視線に気がついた。次第にエナコの顔色が変った。オレはシマッタと思ったが、エナコの目に憎しみの火がもえたつのを見て、オレもにわかに憎しみにもえた。オレとエナ
コは全てを忘れ、ただ憎しみをこめて睨み合った。 エナコのきびしい目が軽くそれた。エナコは企みの深い笑いをうかべて云った。「私の生国は人の数より馬の数が多いと云われておりますが、馬は人を乗せて走るため
に、また、畑を耕すために使われています。こちらのお国では馬が着物をきて手にノミを握り、お寺や仏像を造るのに使われていますね」 オレは即座に云い返した。「オレの国では女が野良を耕すが、お前の国では馬が
野良を耕すから、馬の代りに女がハタを織るようだ。オレの国の馬は手にノミを握って大工はするが、ハタは織らねえな。せいぜい、ハタを織ってもらおう。遠路のところ、はなはだ御苦労」 エナコの目がはじかれたよ
うに開いた。そして、静かに立ち上った。長者に軽く目礼し、ズカズカとオレの前へ進んだ。立ち止って、オレを見おろした。むろんオレの目もエナコの顔から放れなかった。 エナコは膳部の横を半周してオレの背後へ
まわった。そして、そッとオレの耳をつまんだ。「そんなことか!……」 と、オレは思った。所詮、先に目を放したお前の負けだと考えた。その瞬間であった。オレは耳に焼かれたような一撃をうけた。前へのめり、膳
部の中に手を突ッこんでしまったことに気がついたのと、人々のざわめきを耳の底に聞きとめたのと同時であった。 オレはふりむいてエナコを見た。エナコの右手は懐剣のサヤを払って握っていたが、その手は静かに下
方に垂れ、ミジンも殺意が見られなかった。エナコがなんとなく用ありげに、不器用に宙に浮かして垂れているのは、左手の方だ。その指につままれている物が何物であるかということにオレは突然気がついた。 オレは
クビをまわしてオレの左の肩を見た。なんとなくそこが変だと思っていたが、肩一面に血でぬれていた。ウスベリの上にも血がしたたっていた。オレは何か忘れていた昔のことを思いだすように、耳の痛みに気がついた。
「これが馬の耳の一ツですよ。他の一ツはあなたの斧でそぎ落して、せいぜい人の耳に似せなさい」 エナコはそぎ落したオレの片耳の上部をオレの酒杯の中へ落して立去った。 それから六日すぎた。 オレたちは邸内
の一部に銘々の小屋をたて、そこに籠って仕事をすることになっていたから、オレも山の木を伐りだしてきて、小屋がけにかかっていた。 オレは蔵の裏の人の立ち入らぬ場所を選んで小屋をつくることにした。そこは一
面に雑草が生え繁り、蛇やクモの棲み家であるから、人々は怖れて近づかぬ場所であった。「なるほど。馬小屋をたてるとすれば、まずこの場所だが、ちと陽当りがわるくはないか」 アナマロがブラリと姿を現して、か
らかった。「馬はカンが強いから、人の姿が近づくと仕事に身が入りません。小屋がけが終って仕事にかかって後は、一切仕事場に立ち入らぬように願います」 オレは高窓を二重造りに仕掛け、戸口にも特別の仕掛けを
施して、仕事場をのぞくことができないように工夫しなければならないのだ。オレの仕事はできあがるまで秘密にしなければならなかった。「ときに馬耳よ。長者とヒメがお召しであるから、斧を持って、おれについてく
るがよい」 アナマロがこう云った。「斧だけでいいんですか」「ウン」「庭木でも伐ろと仰有《おっしゃ》るのかね。斧を使うのもタクミの仕事のうちではあるが、木地屋とタクミは違うものだ。木を叩ッ切るだけなら
、他に適役があらア。つまらねえことでオレの気を散らさねえように願いますよ」 ブツブツ云いながら、手に斧をとってくると、アナマロは妙な目附で上下にオレを見定めたあとで、「まア、坐れ」 彼はこう云って、
まず自分から材木の切れッ端に腰をおろした。オレも差向いに腰をおろした。「馬耳よ。よく聞け。お主《ヌシ》が青ガサやチイサ釜とあくまで腕くらべをしたい気持は殊勝であるが、こんなウチで仕事をしたいとは思う
まい」「どういうわけで!」「フム。よく考えてみよ。お主、耳をそがれて、痛かったろう」「耳の孔にくらべると、耳の笠はよけい物と見えて、血どめに毒ダミの葉のきざんだ奴を松ヤニにまぜて塗りたくッておいたら
ってしまったのを、いかんともすることができなかったから。 その嘲りをエナコに向けるのは不当であると気がついていたが、オレの目をエナコに向けてそこから放すことができなければ、目に宿る嘲りもエナコの顔に
向けるほかにどう仕様もない。 エナコはオレの視線に気がついた。次第にエナコの顔色が変った。オレはシマッタと思ったが、エナコの目に憎しみの火がもえたつのを見て、オレもにわかに憎しみにもえた。オレとエナ
コは全てを忘れ、ただ憎しみをこめて睨み合った。 エナコのきびしい目が軽くそれた。エナコは企みの深い笑いをうかべて云った。「私の生国は人の数より馬の数が多いと云われておりますが、馬は人を乗せて走るため
に、また、畑を耕すために使われています。こちらのお国では馬が着物をきて手にノミを握り、お寺や仏像を造るのに使われていますね」 オレは即座に云い返した。「オレの国では女が野良を耕すが、お前の国では馬が
野良を耕すから、馬の代りに女がハタを織るようだ。オレの国の馬は手にノミを握って大工はするが、ハタは織らねえな。せいぜい、ハタを織ってもらおう。遠路のところ、はなはだ御苦労」 エナコの目がはじかれたよ
うに開いた。そして、静かに立ち上った。長者に軽く目礼し、ズカズカとオレの前へ進んだ。立ち止って、オレを見おろした。むろんオレの目もエナコの顔から放れなかった。 エナコは膳部の横を半周してオレの背後へ
まわった。そして、そッとオレの耳をつまんだ。「そんなことか!……」 と、オレは思った。所詮、先に目を放したお前の負けだと考えた。その瞬間であった。オレは耳に焼かれたような一撃をうけた。前へのめり、膳
部の中に手を突ッこんでしまったことに気がついたのと、人々のざわめきを耳の底に聞きとめたのと同時であった。 オレはふりむいてエナコを見た。エナコの右手は懐剣のサヤを払って握っていたが、その手は静かに下
方に垂れ、ミジンも殺意が見られなかった。エナコがなんとなく用ありげに、不器用に宙に浮かして垂れているのは、左手の方だ。その指につままれている物が何物であるかということにオレは突然気がついた。 オレは
クビをまわしてオレの左の肩を見た。なんとなくそこが変だと思っていたが、肩一面に血でぬれていた。ウスベリの上にも血がしたたっていた。オレは何か忘れていた昔のことを思いだすように、耳の痛みに気がついた。
「これが馬の耳の一ツですよ。他の一ツはあなたの斧でそぎ落して、せいぜい人の耳に似せなさい」 エナコはそぎ落したオレの片耳の上部をオレの酒杯の中へ落して立去った。 それから六日すぎた。 オレたちは邸内
の一部に銘々の小屋をたて、そこに籠って仕事をすることになっていたから、オレも山の木を伐りだしてきて、小屋がけにかかっていた。 オレは蔵の裏の人の立ち入らぬ場所を選んで小屋をつくることにした。そこは一
面に雑草が生え繁り、蛇やクモの棲み家であるから、人々は怖れて近づかぬ場所であった。「なるほど。馬小屋をたてるとすれば、まずこの場所だが、ちと陽当りがわるくはないか」 アナマロがブラリと姿を現して、か
らかった。「馬はカンが強いから、人の姿が近づくと仕事に身が入りません。小屋がけが終って仕事にかかって後は、一切仕事場に立ち入らぬように願います」 オレは高窓を二重造りに仕掛け、戸口にも特別の仕掛けを
施して、仕事場をのぞくことができないように工夫しなければならないのだ。オレの仕事はできあがるまで秘密にしなければならなかった。「ときに馬耳よ。長者とヒメがお召しであるから、斧を持って、おれについてく
るがよい」 アナマロがこう云った。「斧だけでいいんですか」「ウン」「庭木でも伐ろと仰有《おっしゃ》るのかね。斧を使うのもタクミの仕事のうちではあるが、木地屋とタクミは違うものだ。木を叩ッ切るだけなら
、他に適役があらア。つまらねえことでオレの気を散らさねえように願いますよ」 ブツブツ云いながら、手に斧をとってくると、アナマロは妙な目附で上下にオレを見定めたあとで、「まア、坐れ」 彼はこう云って、
まず自分から材木の切れッ端に腰をおろした。オレも差向いに腰をおろした。「馬耳よ。よく聞け。お主《ヌシ》が青ガサやチイサ釜とあくまで腕くらべをしたい気持は殊勝であるが、こんなウチで仕事をしたいとは思う
まい」「どういうわけで!」「フム。よく考えてみよ。お主、耳をそがれて、痛かったろう」「耳の孔にくらべると、耳の笠はよけい物と見えて、血どめに毒ダミの葉のきざんだ奴を松ヤニにまぜて塗りたくッておいたら
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