2020年X X月、関根剣は六本木ヒルズにいた。
華やかなファッションに身を包む周囲の人々とは対極的に、皺だらけのスーツ姿で歩く関根。
関根はすれ違う人々に精一杯の愛想を振りまきながら歩いていた。
「どうもこんにちは」
「お仕事お疲れ様です」
そんな関根の挨拶への反応は、形式的な会釈と蔑みの目で返された。
そこに一時代を築いた大物YouTuberの面影はなく、哀れな弱小企業の社長がいるばかりだった。

廊下を渡っていた関根の足があるドアの前で止まった。
そこには 株式会社uuum 社長室 とあった。

コンコン。
「失礼します」
「どうぞ」
ドアの向こうから聞こえる声は若い男の声だった。
関根はドアノブに手をかけた、その刹那。
バチッ!
ドアノブを掴んだ手に堪え難い激痛が走った。
「あっ、いったぁーい!」
関根は叫んだ。

『アハハハハ!』
『どうしました、メグさん』
『ちょいちょいちょーい! 痛いんだけど』
『いや関根さん、オーバーすぎるでしょ』
『メグさん、メグさん。これ見てくださいよ』
『『『テッテレー』』』
『事実だろ!』
『アハハハハ』

「どうしたんですか? お入りください」
ドアの向こうから呆れたような、冷めた声が聞こえた。
「あ、失礼しました。失礼します。」
関根はもう一度手をノブにかけ、改めてuuum社長室へ吸い込まれるように入っていった。
今やドッキリを仕掛けてくれる社員も、ドッキリを仕掛けてる価値も関根にはなかった。