■安倍政権とは何だったのか  (著)適菜収

★周回遅れのグローバリスト P174
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非常時にはいろいろなものが見えてくる。普段取り繕っている人間の化けの皮も剥がれる。それで彼らは必死になる。
ここのところ、ネットでは連日のように安倍晋三の礼賛記事が流れている。

ネトウヨ、およびそれに類する評論家みたいなのが安倍の一挙手一動を褒め称える。
相当、追い詰められているのだろう。
潮目が変わったというか、やっぱり安倍ではダメだと思う人が保守層の中に増えてきたようだ。

擁護するにしても積極的なものは少なく、「民進党よりマシ」「左翼がダメすぎる」といったものが多い。ある意味、それは正しい。
頓珍漢な政権批判を繰り返す左翼は、安倍政権の補完勢力になっている。
慶應義塾大学教授の金子勝はツイッターで「たしかに安倍首相も同じ排外ナショナリストとして
(ドナルド・トランプ)と気が合うようだが、悲しいくらい『属国』の首相扱い」とつぶやいていた(2016年11月28日)。

「外国人材」などと国民を騙し、大量の移民を国内に入れようとしている安倍がなぜ「排外ナショナリスト」になるのか。
安倍は保守でも右翼でもなく周回遅れのグローバリストである。
左翼もきちんと現状認識しないと、安倍の暴走に棹差すことになる。

アメリカ大統領選で共和党の実業家トランプが勝利(2016年11月8日)。
株価や為替相場は乱高下し、わが国の政界にも激震が走った。
民主党のヒラリー・クリントン元上院議員の勝利を見込んでいた安倍は、大統領の開票終盤、「話が違う」と外務省にいら立ちをぶつけたという。
2016年9月の訪米では、ヒラリーとだけ会談。

トランプを無視した形になり気まずかったのだろう。
野党からトランプとのパイプを築いてこなかったことを批判されると、安倍はトランプ陣営の関係者とは会ったと胸を張り、
しまいには「クリントン政権が誕生すると推測した事実はない」との政府答弁書を閣議決定した(2016年11月22日)。痛々しいですね。

本質的な問題は安倍がトランプ勝利を予想できなかったわけではない。
トランプ勝利後も、目の前で発生している事態をまったく理解していなかったことだ。

A
安倍はトランプに対し、「(日米は)普遍的価値の絆で固く結ばれた揺るぎない同盟国」「21世紀においては、日米同盟は、
国際社会が直面する課題に互いに協力して貢献していく『希望の同盟』であり、トランプ次期大統領と手を携えて、
世界の直面する諸課題に共に取り組んでいきたいと思います」と祝辞を送っている。

トランプの勝利により否定されたのは「普遍的価値」という発想だ。
トランプが発言を翻す可能性もあるし、ネオコン勢力とのつながりも指摘されているが、額面通りに受け取ればアメリカは
「世界に直面する諸課題」に積極的に取り組まないと意思表明を行ったのである。

トランプ勝利を予測した歴史人口学者のエマニュエル・トッドが、そこそこ真っ当な分析をしていた(『朝日新聞デジタル』)
「自由貿易と移民が、世界中の働き手を競争に放り込み、不平等と停滞をもたらした、と人々は理解し、
その二つを問題にする候補を選んだ。有権者は理にかなったふるまいをしたのです」

「トランプ氏選出で米国と世界は現実に立ち戻ったのです。幻想に浸っているより、現実にもどったほうが諸問題の対処は容易です」
「議会共和党が、トランプ氏を制御するのではと言われます。でも、自由貿易がこの選挙で中心的なテーマになったことは、みんな知っています。
議員たちも反自由貿易の空気を考慮せざるを得ないでしょう」

アメリカは世界中に「普遍的価値」を押し付けるというネオコン路線、グローバリズム路線に疲れ果て、これまでも世界の警察からの撤退を匂わせてきた。
要するに、トランプ勝利はアクシデントではない。イギリスのEU離脱も含めて、大きな流れの同一線上にある。

アメリカが内側に引っ込めば、世界のパワーバランス、カネの流れも変わる。
にもかかわらず、安倍は「世界経済の原動力であるアジア太平洋地域の安定は、
米国に平和と繁栄をもたらすものです」などと能天気なことを述べていた。

だが実際には、「アジアに米国の軍隊を出すことが、本当に米国の利益につながるのか?」
という不信感がトランプの票につながっているのである。
一体いつ夢から覚めるのか。幻想に浸っているより、現実に戻ったほうが諸問題の対処は容易だ。