なとりさんが自殺を試みた。
幸い命に別状はなく、足の骨折も後遺症は残らないそうだが、彼女の精神状態はすこぶる最悪だった。


なとりさんがやつれているのはこの前あったときに見て取れたが、どうやら私の見立てよりも彼女の心の裡は悲鳴を上げていたらしかった。
それもそのはずだろう。たまさんともちさんを他ならぬ自分自身が意図せず追い込んでしまっていたのだから。
加えてやりたいことをやれないストレス、周囲からの視線や批判。そして何より、“あの二人”が今この瞬間幸せそうに過ごしているという事実。


「あまり気負いすぎない方がいいですよ…なとりさんは悪くないんですから」


「…………はい」


「何か果物でも食べますか。といっても私は皮を剥くのは得意じゃないのでみかんかバナナの二択ですが」


「……はい」


私がたびたび様子を見にくるようになって三週間が経つが、彼女の空返事は未だ健在だった。
黒く凛としていた目は今や虚ろで眼窩から零れ落ちてしまいそうで、健康的な手足もすっかり筋張っていた。


────見ていられない。


居た堪れなくなって思わず病室を後にすると、メッセージの受信を知らせるバイブ音がした。
スマホのロック画面を開きメッセージを確認する。


いくみさんお久しぶり!
なとりんと最近連絡取れないんだけど機種変とかしたのかな?
何か聞いてない?


私は物事を切り離して考える癖がある。辛い出来事があっても感情と分けて考えられる。
そう自負していたし、事実今まではそう出来ていた。
けれど元同僚のその子のメッセージを見た途端、私の中にどうすることもできないどす黒い感情が湧き立った。


────あなたが遊び呆けている間、なとりさんがどんな気持ちだったか。


お門違いな怒りかもしれない。逆恨みかもしれない。
ただ呆然とその場に立ち尽くす私の体とは裏腹に、指先は慣れた手つきで早々とスマホの画面を叩く。


なとりさんなら亡くなられましたよ。
飛び降り自殺ですって。