あの子とのトーク画面を開いて数分、私は未だ送信ボタンを押せずにいた。

たまさんならしっかりしているからきっと大丈夫だろう。
もちは私に懐いてくれているから相談してくれるだろう。
そんな楽観的な思い上がりのせいで彼女たちを結果的に見捨てた私が今更どんな顔をして連絡を取るというのだろう。
彼女たちの肩を持つわけでもなくファンを安心させるでもない。
ただ悲劇のヒロインぶって殻に閉じこもるだけの自分自身に反吐が出そうになる。


「私もあなたたちと……」


抱くことすら許されない願望が思わず口をつく。
少し面倒くさそうに私の相手をする攻めっ気の強い彼女。私のことを嬉しそうに配信で話してくれていた彼女。
数ヶ月前まで気にも留めなかったくせに、今の段になって掌からこぼれ落ちた物の大切さを痛感する。


間違えてばかりだな、私は。


何もする気になれなくてベッドの上に肢体を投げ出す。
そんな時、聞きなれた通知音が鳴り反射的にスマホを確認する。


アイドル部を辞めてから初配信が終わったし、もしよかったら見てねなとりん…!


トーク画面を開いていたせいですぐさま既読をつけてしまったことに焦る。けれどどう返信すればいいか迷う頭とは裏腹に、彼女に嫌われていたわけではなかったという安心感が生理現象として頬を伝い流れ落ちる。


「ほんとうに、ごめんなさい……ごめん……」


涙で濡れてしまった液晶の上を必死に打鍵する。


お二人の掛け合いがとても面白かったです!お歌を聴かせてくれるのも、楽しみに待ってますね!


当たり障りのないメッセージを送ってすぐさま電源を切る。
あの子には笑っていて欲しいから。

事務所を抜けても抜けなくても誰かを傷付けてしまう。
なら、自分が傷つけたあの子からのメッセージを思い出に一人で最後まで悲劇のヒロインぶってやるのも悪くないのかもしれない。

私は晴れやかな気持ちでマンションの階段を一足飛びで駆け上る。
裸足でコンクリートを踏む冷たさが今は心地がいい。
12階まで上がったところで外の景色を見やる。
郊外の夜景は特に見所もない凡庸なものだったが、遠くまで見渡せるのは気分がいい。
冷たい金属の手すりをつかんで登り、その上でバランスを取る。

恐怖心はなかった、許しをもらえたから。
私は勢いをつけて、そして────