年金繰上げ受給を「資産運用の元本調達」と定義し、「本来の月額15万円」を「24%減の11.4万円」で受給、その全額を「年利5%(月複利)」で運用するという前提を置くと、そこには現代版の「アキレスと亀」の逆転劇が写し出される。
65歳受給派が受給権というスタートラインに立つまでの5年間、繰上げ派は既に約684万円を受領している。これを運用に投じれば、65歳時点での資産総額は約775万円。この先行逃げ切りを、65歳受給派が「月15万円」という額面の多さで追いかける構図は、まさにアキレスと亀のパラドックスを想起させる。しかし、数学的な結末は残酷だ。
本来ならば駿足のアキレス(65歳受給派)が、先行する亀(繰上げ派)をいつか追い抜くはずである。だが、繰上げ派が持つ775万円の元本が産む複利の利益(月約3.2万円)が、受給額の差分(月3.6万円)をほぼ無効化し続ける。この資産運用という「加速度」が加わることで、追う側のアキレスは、逃げる亀との距離を永久に縮めることができなくなる。
計算上、80歳時点の資産は繰上げ派が約4,324万円、65歳受給派が約3,428万円。90歳になればその差は1,100万円以上に広がる。24%の減額という重石を背負いながらも、先に複利の波に乗った「亀」は、長生きという時間を味方につけ、追随を許さないまま地平の彼方へと消えていくのである。