ありし日は速弾きギターを猛練習していたHIDEチャン
最期はカスタネットしか演奏できなくなっていたという

カシャッ、カシャッ……カシャシャ!!
5連符、7連符、全休符からの3連符
HIDEチャンの奏でる独特の変拍子に看護師Fはそこはかとないセンスを感じたという
だが、未来の可能性という意味ではもはやゼロだった
楽しそうにカスタネットを叩き、時に床になげて一風変わったサウンドを奏でるHIDEチャン
床と壁、投げつけると少しづつ音が違う、そんな発見に喜んでいるようだった

「やっと、自由になれたのですね」────
看護師Fは人目もはばからずに涙しながら呟いた
DTMに詳しくなるあまり、自らハードルを上げすぎ、Aメロから先が作れなくなったHIDEチャン
そんなHIDEチャンが最期にしてようやく心から音楽を楽しめるようになった

速弾きにストイックになるあまり、今はまだ人前には出せないとひたすら練習し一度も公開できなかったHIDEチャンのギター
仮にH演奏を公開していても、録音した音源ならまだしも生演奏はまず無理、とボガード教授は分析する
一度も人前で演奏したことのないスーパーギタリストは、人前に出たとたん急激にレベルが落ちるのである
その多くは、いきなり運指ストレッチ用のフレーズなどを緊張でトチリながら唐突に弾き上げる
一般リスナーにはそれが上手いのか下手なのか分からない
かたやギタリストには、緊張で固まったピッキング、バラバラのテンポがバレてしまう
周囲の無反応を気にして、「上手いことがきっと伝わるであろう」アルペジオベースのフレーズを弾くが、
やはり緊張でピッキングがブレ、テンポが不安定

教授もいつしか涙を流し言った────
「最終的にはギターかアンプのせいにする」────

HIDEチャン死亡まであと97日

『DTM昭和史 〜ネオ・プリンシパル〜』
令和3年3月10日
全国の防災ラジオで一挙放映