>>中性原子方式では、電荷を持たない原子1個を1量子ビットとして使う。同一種の原子は性質がそろっており、人工的に製造する量子ビットと比べて素子ごとのばらつきが生じにくい。光ピンセットを動かせば、計算途中でも原子の配置を変えられる。離れていた量子ビットを近づけて相互作用させ、アルゴリズムに合わせて接続関係を組み替えられる点が特徴だ。

>>量子ゲートでは、原子を高いエネルギーのリュードベリ状態へ励起し、近接する原子との強い相互作用を利用する。固定配線の制約を減らせるため、誤り訂正に合わせて量子ビットの接続関係を設計しやすい。ただし、原子を自由に動かせることと、高精度な演算を長時間続けられることは同義ではない。実機ではレーザーを安定させ、ゲート操作から読み出しまで複数の性能を同時に保つ必要がある。

>>「室温動作」にも注意が要る。超伝導方式のような巨大な希釈冷凍機は不要だが、原子はレーザーで冷却し、真空容器の中へ閉じ込める。レーザー光源や光学系、制御電子機器も欠かせない。室温で動くのは装置全体の環境であり、冷却工程そのものが消えるわけではない。

>>第1期の成果は、統合前にどこまで要素技術を積み上げていたかを示す。チームはイッテルビウム原子の励起に使う波長325nmの高出力光源を構築し、量子ビットの検出忠実度99%以上を記録した。核スピンが量子情報を保つ時間は、1量子ビットゲートの操作時間の100万倍以上だった。ルビジウム原子では800個の光ピンセットを整形・均一化して自動運転し、量子ビットを壊さず状態を測る非破壊測定も原理検証まで進めている。

>>ただし、99%以上という数字は要素実験の「検出忠実度」であり、春海の量子ゲートが99%以上の精度で動くという意味ではない。今回の発表は、1量子ビットと2量子ビットのゲート忠実度、実行できる回路の深さ、連続稼働率、計算ベンチマークを公表していない。稼働開始は統合の達成であり、誤り耐性や量子優位性の実証はこれからだ。